かわいいひと、さあ、ぼくといっしょに散歩しよう!
僕の嘘の庭に罌粟の花が咲いている。
ほんの、ほんのちょっとでいいから誘惑されておくれ、
かわいいひと!
ぼくは魔法使いで、上機嫌。
テーブルよ、食事の支度?ほうら、もう用意ができた!
工場の煙突のてっぺんでトロンボーンを吹いてあげるよ、
かわいいひと!
移動砂丘を操縦して、
それに乗って目的地を通過する第一号になるんだ。
お望みなら、北極をアイスキャンディーにして
プレゼントすることだって出来るんだ。
かわいいひと、よく聞いて。僕は王様、
けれども君のためなら、王位も捨てよう。
それを聞いて、君は、ほんの、ほんのわずかでも感激しないのかい、
かわいいひと!
かわいいひと、大胆な男なら、君を誘惑できるかな?
月を風船にしてもってこようか。
サンタクロースのひげだって剃ってもいいんだけど、
かわいいひと。
空から宝石を奪ってこようか。
夕星父子協会に泥棒に入ろうか。
土星の環を盗んできてあげるよ、
かわいいひと。
彗星にまたがってロデオを披露しようか?
僕たち、世界っていうメリーゴーラウンドに乗って、
はるかな昔を、はるかな未来を通過するんだ、
君の好きなだけ。
かわいいひと、今のはみんな嘘だと思う?
じゃ、知らないのかい?君だってイリュージョンなのさ!
僕は君のことを夢にみてたのさ―――――ただ面白かったから、
かわいいひと!
【かわいいひと】
ミヒャエル・エンデ 作 「夢のボロ布」 より
ここらでちょっと Tea break