目が覚めたとき、既に日は中天を越えているようで、いつも朝の陽ざしを差し込ませる窓からはレースのカーテン越しに青い空しか見えない。
「うっ・・・・・いたたた」
起き上がろうとするとあちこちから鈍い痛みが湧きあがる。
ふと額に触れてみれば、冷えピタが貼られていた。
どうやら熱を出していたらしい。
「無茶をしたからなぁ。・・・・・うわ、すごいことになってるぞ」
自分のからだに目をやると、キスマークがちりばめられ、おまけに噛み痕らしい赤黒いあざやきつく掴まれたせいの腰や腕に青あざまであった。
手当てをしてくれたのか、からだはさっぱりと綺麗になっており、あざや傷には丁寧に薬が塗られているようだったが、少し動かしただけであちこちが痛む。
「・・・・・起きられるかな」
立ち上がろうとした途端にずきりとあらぬところに痛みが走ってしまい、またベッドに逆戻りすることになってしまった。
ぱたん・・・・・。
寝室のドアが開き、静かに圭が入ってきた。
悠季が目覚めているのを知ると、ほっとしたようなすまなさそうな、複雑な顔をしてみせた。
「熱は下がったようですね」
悠季が起き上がろうとしているのを見て取って、かいがいしく背もたれ用にクッションを置いて、肩にガウンをかけてくれた。
「からだの具合はどうですか?」
「う、うん。ちょっと痛むけど、少し用心していれば大丈夫さ」
「食欲はありますね?」
「うん、あるけど。でも、もう少しからだを慣らしてから下へ行くよ」
「では、それまでの喉湿しに」
圭は悠季の膝の上に組み立て式のテーブルを用意し、座ったままで飲めるようにと蜂蜜の入ったレモネードを渡してくれた。
温かく甘い液体は、昨夜あえいだり叫んだりして酷使してかすれた喉をうるおしてくれた。
「悠季、昨夜は申し訳ないことを」
「そのことなら謝らないで。僕も望んだことなんだから」
悠季は微笑みながら軽い口調で、圭の謝罪をしりぞけた。
「君は謝るようなことはしていないよ」
「・・・・・はい」
ほんのり甘いレモネードを飲むと、からだの芯がゆるむような気がした。
からだが重くだるいのはどうやら昨夜のハードなセックスで、エネルギーを使い果たしていたせいもあるらしい。
「圭、いくらか落ち着いたかな?」
「ええ、未だに君依存とは情けない限りですが、一晩君を抱いて眠ったためでしょう。昨夜までの君がいないという強迫観念は消えうせたようです。
どうして君がいなくなると思いこんで、あれほど取り乱していたのか。今は分からないくらいです」
「うん。それならよかったけどね」
穏やかな微笑みが、圭に向けられた。
「僕と君とが白髪のよぼよぼのお爺さんになった頃には、若い頃、お互いこんな不安を持っていたなあなんて、茶飲み話のいい笑い話になっていると思うよ。そういうこと」
柔らかな声と軽い口調はどこかささくれ冷えてしまっていた圭の心の片隅まで温めてくれるものだった。
「さて、そんな日を目指して、まずは起きるためにがんばらないとね。
シャワーを浴びてから、君の手料理をいただく事にするよ」
「ああ、はい。手伝います」
嬉しげな顔でいそいそとシャワーの準備に動き出す。
「・・・・・したいの?」
「ええ、ぜひ。君に触れて確かにここにあることを確かめさせて下さるでしょう?」
圭の張り切った姿を見て、悠季は困った顔をになった。
「それじゃ、うーん。・・・・・お願いしようかな」
しぶしぶうなずいた。
「はい!」
「言っておくけど、このまままたベッドに戻るようなことはなしだよ。これから練習しないといけないんだからね」
「はい」
圭は張り切った返事をすると、いそいそと悠季を手伝うためにシャワー室へと誘って連れ込んでいった。
「ねえ、圭、聞いてる?」
「はい、聞いてますよ」
「本当にバイオリンの練習をしなくちゃいけないんだからね」
「ええ、分かっています」
「からだがきついんだから」
「大丈夫。君の負担になるようなことはしませんよ」
「だから、ねえ、圭ったら!」
悠季の抗議は続くけれど、抱きあげられて、シャワー室へ連れて行かれるにつれ、声は小さくなっていく。
「・・・・・そんなところ触りながら話しかけないでよ」
「ですが、きちんと調べないといけないですし」
「・・・・・っ!!」
シャワー室の扉が閉まると、抗議の声は更に弱まり・・・・・。
そのあとどうなったかは・・・・・、言わぬが花というところ。
二人の結婚記念日用にUPする予定だったのですが、諸事情で大幅に遅れてしまいました。(汗) ようやく掲載出来てホッとしました。 この夜、どうなったかは、裏の「夜の真実、朝の現実」にて。 隣りのアイコンからどうぞ!→ |
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2010.10/24 UP |
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