【 第20章 上 】
連邦の奴隷制度を弾劾する為の審理が行われ、法廷には証人が何人も呼び出されていた。
連邦の代表として、小早川暁氏が裁判を受けて立っていた。
裁判の様子は悠季のもとへとやってきた圭が詳しく伝えてくれていたが、どうやら連邦の弁明の方が押しているらしく、汎同盟が次々に出す証拠や証人では決定打を与えられない情況らしかった。このままではまた連邦に自国の論理を押し切られてしまうと、市山氏もあせっているらしい。
せっかくここまで用意して臨んだ裁判が無駄になり、また哀れな人間たちが奴隷として使役されてしまうことになる。まして、その中に幼い子供たちが入っているとなれば、ぜひともここで挽回して奴隷制度を廃止へと押し切りたいところだった。
そこで、市山氏は福山の遺していったM.Sを解析したデータを裁判所に提出して、連邦が行っている違法行為を指摘しようしていた。
「しかし、このデータには確証が欠けている。確かに海賊船らしき船や、汎同盟からやってきたと思われる人間の積荷を積んだ船が出入りしているが、その船が載せてきた人間たちが汎同盟の人間だという証拠がない。その人間を一人でも連れてきて初めてこのデータの信憑性が出るというものではないか?」
小早川暁氏が反論してきた。
「ぜひともその証人を連れてきてもらいたいものだ!」
「証人はプライバシーの問題があるために、ここには連れてきていない」
市山氏は言った。
「それでは話にならない!ぜひとも貴殿の話が信頼の置けるものだと示して欲しい」
そして別法廷でも似たような困難な状況となっていた。
「なぜ私がこの場に呼び出されたのか、理解に苦しむ。私は那由他の文化省長官、マティルド・ダヴィド=セレンバーグだ!こんな非難を受けて黙って入られない。名誉毀損で訴えるのでそのつもりで!」
【ハウス】での未成年者の売春についての違法行為の裁判が始まっていた。連邦から子供を買い取ってきては組織的に幼い少年や少女に売春をさせていたことが問題とされているため、同時期に裁判が行われていたのだ。
現在の【ハウス】の名義人はマティルド・ダヴィド=セレンバーグになっている。前々からここの経営には少なからずかかわってきていた彼は、【ハウス】の代表者として法廷に召喚されていた。
「私が違法なことをしていたというのなら、その証拠やら証人を提出してもらおうじゃないか!」
「証人はプライバシーの問題があるために、ここには連れてきていない」
こちらでもまったく同じ科白を言うはめになっていた。
法廷は、『鎖委員会』に対して確証のあるという証人の召喚を命じた。『鎖委員会』は議論の末に証人を出すことを承諾し、次回審議の証言台についに福山悠季が立つことが決定した。
すでにこのような裁判では長期といえる日数が過ぎようとしている。汎同盟の星間裁判所は長期の裁判を好まない。裁判を開始した以上は、証拠の類を全てそろえてあることが前提条件になっているし、次の案件が多く待ち構えているので。
それに、これ以上の長期の審議は『鎖委員会』にとっても不利になる。時間が経てば経つほど、相手に証拠や証人を隠されることがわかったからだ。その上、マスコミの関心が薄れてしまうことは、大きな世論の支持を失ってしまうということになる。やむをえずここで最大の切り札を出すことになってしまった。出来れば、彼のプライバシーのためにも出廷は避けたいと市山は考えていたのだったが。
市山は、悠季のところに直接出向くと、ことの次第を説明し、証言の要請を行っていた。
悠季は、ちょうどCDの録音をなんとか納得のいく程度に完成させていたところで、J・ベック氏に渡したところだった。このCDをエミリオ先生とJ・ベック氏がどのようにするつもりなのかについてはさほど関心がなかった。彼にとって完成する事に意味があったのだ。
とにかく、今の悠季は監禁されていた頃の衰弱から回復しており、後顧の憂いもなく証言台に立つことが出来る状態になっていた。
「ということで、福山悠季君、証言台に立ってもらえるだろうか?」
「はい、それは僕も最初からそのつもりでした」
「申し訳ない。本当ならこんなプライバシーを晒すような真似はしないのだが、どうやらこっちにも打つ手が少なくなってしまってね、本当に申し訳ない。
だが、これ以上は向こうが有利になるのを待っているわけにはいかないのだ。あとは、君に全てを託すことになってしまった。どうかよろしく頼む」
市山は何度も悠季に謝り、そして悠季の決断に感謝しながら帰っていった。
「いいのですか?悠季。このことによって君のプライバシーが世間に晒されることになるのですよ?もちろん僕が必ず守るつもりですが、それでも俗悪な連中の耳目を集めるに違いないのです。君は俗な好奇心とスキャンダルへの悪意を持つ視線に耐えられますか?」
何の能力の無い者でも人々の好奇心と悪意に満ちた視線はストレスが高い。増して感情を読み取ってしまう悠季にとってはひどく堪えるはずで、圭にはそれがひどく心配だった。
「・・・それは、つらいことだと思うけど、覚悟しているよ。死んだまあくんのことを思えばこれくらいどうってことないさ。これでまあくんへの罪滅ぼしになればいいと思ってる」
「・・・君ならばそう言うと思っていましたよ。それでは、この後は僕の言うことを厳守していただけますか?かなり手厳しいことも命じることになってしまいますが、これは僕の我儘や嫉妬からではありません。僕はこういうマスコミへの対応は慣れています。ですから、そのノウハウや情報を利用して君を守り抜くつもりです。
それから今後は僕の許可する者以外とは接触しないでください。どこで誰がスパイになるか分からないのですから。証言中はしばらくの間またホテルに軟禁状態になるでしょうし緊張も続きますが、覚悟はよろしいですね?」
その覚悟はあるのかと確認されて、悠季は気を引き締めてうなずいた。
「・・・わかった」
悠季は、ストレスが重要な問題なのだと思っていた。しかし圭は言わなかったが、本当の危険は別のところにあった。
マスコミがゲリラ的に入り込んでコメントを取ろうとするのなどごくささいな事件で、誘拐や事故で裁判に出席することを妨げようとしたり、事故を装った暗殺未遂などという物騒な可能性もあったのだ。事実、未遂となった事実もあったのだが、すべて悠季の耳から遠ざけられていた。
証言に呼び出されている間、悠季の身柄は表向きには『鎖委員会』の保護の下にあったのだが、実際問題としては桐ノ院家のセキュリティが悠季の身を守っていた。
もっとも、そのことを悠季は最後まで知らなかった。悠季の知らない所で全て密かに処理されていたのだった。
こうして悠季はついに裁判に出廷することになったのだが、その状況は悠季の考えていた以上に過酷なものになっていった。
裁判所では、悠季の負担を考えて二つの裁判の証言を一度に行うことになり、両方の法廷からの質問が次々と行われた。
「まず君のP.I.C(身分証明)を提出しなさい」
「申し訳ありませんが、彼が奴隷であったために、その証明が不備になっております。現在死亡者、行方不明者から確認しているのですが、しばらくかかるようです。緊急の証人召喚でしたので間に合いませんでした。今回は状況証明のみでお願い致します。」
市山の言葉に、裁判官たちは相談した結果、事情を考えて仮に了承して悠季の証言が始まった。
悠季の奴隷になったときの状況、その後の売り渡し、【ハウス】での生活や福山正幸の死亡事件、その後売り払われて点々と持ち主が替わっていったこと、そして恒河沙で福山正夫に売り渡されたときの詳しい話・・・。全て確認が入れられながら、悠季一人で受けて立って話すことになったのだ。当然一日では終らず、何日もかかって証言がなされた。
その間は裁判の公正を期すために、外部からの連絡がシャットアウトされており、圭は悠季のもとへ行くことも会話することも許されず、日に日に悠季がやつれていくのを、圭ははらはらしながら黙って見守っているしかなかったのだが・・・。
悠季はようやく証言と質疑応答の全てを終わり、そのきついストレスに耐え抜いた。そして、全てが終った時、こう結論が出された。
「それでは、奴隷番号YUK1・・・・・・と言う少年、福山正夫に養子となってからの名前「福山悠季』は、海賊の手によって破壊された船から奴隷として連邦の奴隷市場に売り払われ、【ハウス】に買われ、その後また連邦の奴隷市場に売り払われて、最終的に福山正夫が買い取って養子とした。それに間違いありませんな?」
「間違いありません」
悠季がうなずいた。
「こちらも確認いたしました。確かに間違いありません」
小早川があっさりと答え、傍聴人からざわざわという驚きの声がおこった。
「ああ、私も確かに話の内容を確認した。その名の人間が【ハウス】にいたことを認めます」
ダヴィド氏がこう答えた。
傍聴人からは、更に驚いた声が響いた。これほどあっさりと両者が自分の罪を認めるとは思っても見ないことだったので。
「それでは「福山悠季」の証言を終わり、それぞれの法廷で裁判所の結論を申し渡すことになります」
裁判長が閉廷の宣言をしようとした時、小早川暁氏から声がかけられた。
「待ってください!裁判長、彼にまだ一つ確認していないことが残っています」
「言ってください」
「彼の・・・奴隷番号YUK1・・・・・・という人間が、どこで生まれてどこに所属している人間かが確認されていません。今まで聞いた話では、汎同盟に所属する惑星の出身らしいということでしたが、実際の名前は出てきていない。それがどこの星で、正式な彼の戸籍がどこで本名が何かをはっきりと確認してから結論を出していただきたい!」
「私もそれをお願いしたい。それが分からなければこちらとしても【ハウス】にいた少年という話だけで、本人なのか分かりかねます。ぜひとも【ハウス】に残っているDNA登録番号と照らし合わせた上で、どこから来た人間なのか知りたい」
ダヴィド氏も続けて言う。
「どうですか?次の法廷で提出できますか?」
裁判長が市山に尋ねた。
「もうしばらくお待ちいただければ提出できると思います。彼の証言が必要となったのは急なことでしたので、身元調査が今回は間に合いませんでしたが、次回には必ず提出致します」
裁判官たちは、相談してからこう切り出した。
「それでは『鎖委員会』はDNA登録を調べて必ず彼のP.I.Cが分かるようにしておきなさい。次の審議の時には提出できるように。次は銀河標準暦836年4の月2日に行います。それまで、閉廷!」
《やはり向こうは福山君の身元の不透明さをついてきたな・・・》
「おい延原、それって・・・お前もしかしてこの情報をわざと相手にばらしたのか?」
《いや、そういうわけでもないが・・・ばれても構わないとちらっと思ったのは事実だな》
『鎖委員会』の副官である延原と【暁皇】のカウンセラーである飯田は内密に通信していた。
「それを、わざとっていうんだよ!どうするつもりだ?わざわざ相手を有利にしてしまってだな、ちゃんとした勝機はあるのか?!」
《実は・・・、確かに福山悠季という人間は人種的特徴やわずかに残っている幼児期の言葉からして、汎同盟に所属する惑星の出身だと信じているんだが・・・。どうしても出てこないんだよ。
現在の生存者や死亡と確認されている人間の中にはいないが、行方不明や家族単位で航行している船の乗員で現在連絡が取れないものの中に彼の身元が絶対に含まれているのではないかと思っていたんだが・・・》
「おい延原、それは博打を打ったということか?」
《俺としては確信があったんだけどね、あちこち調べた上での自信だったんだから》
「・・・また違法なハッキングでもしたのか?・・・とんでもない奴だな・・・!」
《だがな、本当に間違いないんだ。連邦の方のDNA登録局を極秘に調べてみても彼の情報は記載されていなかったし、奴隷同士の間で生まれた子供も調べたが出てこない。ということは、彼の出身は間違いなく汎同盟に所属する惑星のものに違いないんだ!
・・・ただそれがどこなのか分からないだけで・・・今調べている辺境地域への資源探索のための個人船ならきっと出てくるだろう。俺を信じて待っていてくれ》
延原はそのほか飯田が知りたがっていた裁判の逐一を守秘義務に触れない程度に教えてくれて通信を切った。
「以上のとおりだそうだよ、殿下」
ここは【暁皇】内部にある飯田の執務室だった。そこに圭を呼び寄せて今の報告を聞かせてくれたのだ。
隣で黙って聞いていた桐ノ院は、沈黙を破って話し出した。
「どうやら延原氏は準備期間の不足から見切り発車をしたようですね。危険この上ない」
「まああいつとしても勝算があると思ったからやったんだろうが・・・。それにしても悠季君の身元を調べるのがこれほど難しいとは思わなかったぜ。生きている人間の中の登録になくとも、行方不明や死亡者のリストには必ず入っているだろうと俺も思っていたからな。これほど見つかりにくいっていうのも異常だよ」
「そうですね。そうなると、捜す方向を変えなければならないのかもしれませんね・・・」
「殿下?何か心当たりがあるのかい?」
「少し思い出したことがあるのですが・・・とある惑星での話です。遺伝子操作によって特別な能力を発現させようと研究しているところがあったそうです。もちろん汎同盟の憲章では違法な行為ですから、密かに里親のもとで育てさせたという話がありましたね。もう、かなり前の話ですが。
それから、ロストプラネットの出身ということもあり得ますね。汎同盟が出来る前の本当に宇宙開拓がまだ初期の頃、何かの理由で地球と連絡が取れなくなった惑星移民船が漂着定住した惑星が、偶然発見されるという・・・。はぐれ星のように汎同盟にも連邦にも属すことを嫌った辺境の星とは違い、こういう星は汎同盟の所属に準じるはずですね。
そのあたりも調べなければならないかもしれない、ということですよ」
「おい殿下、そりゃあ雲を掴むような話になっちまうぞ。違法な遺伝子操作をやってた星っていうのは、俺にもどこのことを言っているのかはわかるが、あれはその後 惑星間の戦争によって崩壊して人々もあちこちに散り散りになっているはずだ。ロストプラネットとなれば、さらに捜すのは難しい」
「ええ、ですから僕は可能性のいくつかを示唆したまでです」
「・・・あっさり言いやがるぜ。それを調べる方の身にもなってみろ」
「もちろん僕も他に思いついたところを捜すつもりですが・・・」
ポーカーフェイスで淡々と言っていた桐ノ院だが、その内心の焦燥は飯田にも感じられた。
二人が黙り込んだところにドアがノックされた。
「すんません、失礼するっす」
突然飯田の執務室のドアが開いて、五十嵐が入ってきた。が、ぎょっとなって立ちすくんだ。飯田の表情の深刻さに気がついたのだ。
「あ、すんません。俺お邪魔虫でしたね。後にしますから」
無表情のまま迫力ある桐ノ院にじろりとにらまれて、あわてて退散しにかかった。
「いや、かまわねぇぜ。なんだい?」
これ以上不機嫌な殿下との会話を中断したくて、軽い調子で飯田は五十嵐を引きとめた。
「あの・・・いいっすか?それじゃあ・・・」
五十嵐は飯田に頼まれていた用件のM.Sを渡した。
「それじゃあ俺はこれで・・・」
「おい なんだよ、わざわざここへ来たのはこれを渡しに来ただけか?」
「えーとですね・・・、もし飯田さんがお暇ならちょっとした相談がしたいなー・・・なんて思ったもんっすから・・・」
ちらりと桐ノ院の方を見て、
「またにするっす」
回れ右をして逃げ出そうとした。今の彼のからだからは近寄りがたいオーラが出ているようで、どうにも居心地が悪い。
「おい待てよ。ここに来たやつをそのまま俺が返すわけはないだろう?相談に乗ってやるから、一つクイズに答えてみろ」
「な、何っすかぁ?クイズなんてわからないっすよ」
「いいからいいから。
さて問題だが。幼い頃に母星を離れたある人間がいるんだが、そいつの出身が分からない。DNA登録がされていないことが分かったからだ。しかし何かの方法で登録されている。当然だ、文明のあるところなら出生した人間は必ず記録に残されるからな。
さて、この人間はどこの出身だと思うか?またどんな方法で登録されているか?」
「飯田君!」
「まあ、いいじゃないか」
とがめてきた桐ノ院をあっさりといなした。
「こんなときは『溺れたものは藁をも掴むってやつさ』知恵を借りるんだから誰にでも聞いてみるさ。・・・で、先輩どうだ答えられるか?」
「クイズっすか?・・・う〜〜えーとえーとえーと。うーん、うーん・・・あ!そうだ!地球の出身なんだ!」
「なんだと・・・?!」
「違うっすか?あそこは特別区だから登録が特殊だと聞いたことがあるんすけど・・・。
友人から聞いた話では、子供の登録の仕方も古めかしくて、初めてDNA登録をするのは就学適齢期になった頃が普通だそうで。生まれた時にやるのは、えーと・・・足だったか手の指紋とか虹彩紋だとかで身元の登録をしているとかって聞いたことがあるっす」
「それだ!」
「それです!」
桐ノ院と飯田の声が揃う。
仰天している五十嵐を尻目に、桐ノ院は大急ぎで部屋を出て行った。
「なっ、なんすか?!」
普段は冷静そのものの姿しか見せない桐ノ院が見せた、血相を変えた姿に仰天したのだった。
「いやぁすまんな、先輩。今日は相談を受けられなくなっちまった。近いうちに必ず酒をおごってやるから、相談はそのときな、じゃな!」
「いや、たいしたことじゃないから後でもいいっすけど・・・。何かあったんっすか?俺まずいことを言っちまったんじゃ・・・?飯田さぁーん!」
桐ノ院の後をあわてて追いかけていく飯田の後ろ姿に向かって、五十嵐の情けない声が響いたのだった。
《一昨日のあなたからの情報のとおり、やはり向こうは福山悠季の身元を調べることが出来なかったそうですね。汎同盟の中には彼のDNA登録がないはずだと。いい情報を頂いて感謝していますよ、ダヴィド氏》
「するとあいつが汎同盟の出身と言うのは間違いで、連邦の奴隷同士の夫婦から出来た子供だというのは間違いないわけですね?小早川氏」
《ええ、恒河沙あたりの奴隷は登録がきちんと出来ていますが、少し辺境の惑星になると奴隷の登録まではきちんとしていないところが多い。子供の頃に海賊船に襲われて売り飛ばされた子供は、そのまま身元が分からなくとも奴隷として転売されていたようですね。惑星『穰溝』の出身らしいということはほぼ間違いないようです》
「それは確認できたのですか?」
《福山悠季の遺伝子とその親族との照らし合わせはこれからなので裁判には間に合いそうもありませんが、過去のデータには間違いなく彼の遺伝子登録が記載されておりましたよ。これで安心して裁判に出席できると言うものです》
「なるほど。すると『鎖委員会』の奴らは勇み足をしたということですか。これまで積み上げてきたデータやら証拠やらが未確認の情報と一人の男のせいで一気に崩れると言うわけですか。気の毒にね」
くっくっくっとダヴィドは含み笑う。
「これで、連邦も奴隷問題でとやかく言われることもなくなりますし、私も【ハウス】再建に向けて動き出すことが出来る。お互いにひと安心というものですな。
私が那由他の実権を握った暁には、必ずまた連邦に復帰しますので、そのときは連邦の他の方々にもどうぞよろしくお取次ぎください」
《ええ、お互いにこれからも協力していきましょう》
密かな通信が切られた。
互いに相手を裏切ることなどいささかの痛痒も感じていない同士だが、自分たちの権益が脅かされるとなると話は違う。固く団結してどんな汚い手を使ってでも敵対相手をつぶすし、それにいささかの良心の呵責を覚えない。
「さてレンベルグ、お前にもこれから働いてもらうことになるのだから、しっかりやってくれ。・・・それから例のやつだがな、あのからだを味見できないのは残念だが、こんな裁判に持ち込んで私に冷や汗をかかせた代償は必ず払ってもらえ。いいな、必ずだぞ」
「・・・はい、承知いたしました」
ダヴィドの命令に、レンベルグはうやうやしく頭を下げたのだった。