惑星「ジェイナス

保安員にU型フェイザーを装備させて坑道の捜索を開始した。
 相手がすでに五十人にも達する人間を殺していることから、注意は最大限に払うよう。銃の出力は最大限にしておくことなど、事細かな指示が出された。
 僕は珪素生物なんて珍しいもの二度と出会えないかもしれないといって、捜索に参加した。
 圭はポーカフェイスの下で渋い顔をしたが反対はしなかった。
 ちょっと、後ろめたい気になりながらも、確かめたいことがあった。
 誰にもいってない重要な仮説がある。これが正しければ、珪素生物という、貴重な種を救えるかもしれない。
 でもこれからやろうとしていることがばれたら、圭は絶対に船から降ろしてくれないだろうから、ないしょにするしかない。

「ミスター・ヴァンダーバーグ、珪素団塊を発見したのはどの地層ですか?」
「第三十三層だが、なぜかね?」
「では、そこを基点として捜査を開始します」
 圭は、ヴァンダーバーグの質問には答えず続けた。
「ミスター・ヴァンダーバーグ、開発者とその家族たちを坑道から一番遠いところに集めてください。なるべく、安全を確保したいですから」
 たしかに、もし、<フジミ>に避難ということになっても集まっていてくれた方がいいし、(もし、それがそうなら)妨害工作も防げるはずだ。

 僕は圭と保安員二人の四名で捜索を開始した。
 トリコーダーは珪素系生命体に反応するようセットされている。
 有効範囲が定かないのでとりあえず、曲がりくねったトンネルの許す限り割り当てられた方向に進む。
「しかし、なぜ、怪物は原子炉の中和ポンプを狙ったのか、その見当もついているんじゃありませんか?」
「なぜ、狙えたか、仮説が立てれる程度なんだ。
余計な憶測を招きたくない」
「その仮説を教えてはくださらないんですか?」
「珪素生物に出会えればはっきりすることだし、捜索の役にはたたないことだよ」

 トリコーダーに反応があった。やはり、珪素生物は存在するんだ。
 ところが、まっすぐ進むことはできない。くねくねと曲がったトンネルの許す限り目標に近づこうと足を進めた。
 鉱物の多い地層はトリコーダーの邪魔をする。
 現れたり消えたりする反応は、とてもトンネルを移動しているとは思えない所に現れる。
 複数いるのでなければ、やはり、トンネルに依存していないんだ。

 目隠し鬼のように手の鳴る方へ―――反応を追いかけてどれぐらいこの曲がりくねったトンネルを移動しただろう。
 地図にないトンネルはいくつもあった。
 みんな、掘削機を使ったものでなく、なだらかなものだ。
 トリコーダーを珪素生物にセットしているので仲間がどの辺にいるのかもわからない。
 僕と圭と保安員の足音だけが響く。
 そのとき、だれかが悲鳴をあげた―――いや、あげようとした、といった方が正しいかもしれない。
 その声はぷっつりと途切れてしまったから。
 僕たちは走った。
 数秒後、僕たちはトンネルの床の上のちいさな黒いかたまりをみつめていた。
 あちらにひとつ。こちらにひとつ。
 かたわらにはフェイザーがころがっている。
 圭は厳しい顔をポーカーフェイスに隠すとそれを拾いあげ、調べた。
「エネルギーが減っている。発射されたようですね」
 見回してみると、壁際に焦げたようなあとと、あれは何だろう?「ふむ。怪物の一部ですかね?」
 かがみこんでいた圭が、手になにやら大きな木片のようなものを持って立ち上がった。
 それはどうみても動物の皮膚組織には見えない。
 むしろ、繊維状で石綿のような感じで。
 しかし、トリコーダーで調べてみると珪素有機物の一種だった。
「二人がかりでも危険なようですね」
 ポーカーフェイスの目だけが厳しく光っている。
 通信機を取り出して。
「船長から捜索班全員に。予想より危険な犯人と思われますので、いまより、編成を変更します。
 一組四名以上とします。具体的な組み合わせは飯田副長におまかせします。以上」
 代表として飯田さんから了解の報告があった。
「で、犯人をみたのかい?」
「いいえ、しかし、残留物がありました。珪素有機物です」
「やれやれ、本物の怪物か・・・。で、船長のところは保安員を増やすのか」
「いえ、ちょうど、四人ですし、多ければ狭いトンネルで足手まといになりかねません」
「了解。気をつけてな」

 圭は足を止めたまま黙りこくっていたが、いきなり僕に話しかけてきた。
「ドクトル、珪素有機物を分析していただきたいのですが。フェイザーにどのぐらいの耐性があるか知りたいのです」
 急にそんなことを言い出してもその手には乗らないよ。心配性の圭は僕を遠ざけたいだろうけど。
「U型フェイザーで負傷させられたのだから、数丁のフェイザーで狙い打てば倒せる、だろ?」
「わかりました。ですが、絶対に無茶はしないでください。いいですね?」
 圭は釘を刺してきた。
 僕は後ろめたさに圭と目を合わせられない。
「悠季?」
 そんな僕を救ってくれたのは圭の通信機だった。
「市山です、船長。
わたしのインスタントポンプが、たったいま、おしゃかになりました」
「おしゃか?」
「あー、つまり、もうダメだってことで」
「わかりました。開発者とその家族全員をを<フジミ>に緊急避難させてください」
 ヴァンダーバーグの声が割りこんできた「全員は困るよ、キャプテン。わたしとわたしのスタッフのうち必要なものはここに残るよ。われわれも今からそこへ降りていって、きみたちに合流する」
「あなたがた全員に行き渡るだけのフェイザーはありません」
「それでも、このまま、指をくわえて見ている気はない。われわれは絶対にここから追いたてられたりはしないぞ。わたしの部下に命令をだすのはわたしであって、きみではない」
 武器もトリコーダーもなくて、何が出来るって言うんだ、まったく。
 しかし圭は、反対しても仕方ないと判断したのか、ヴァンダーバーグとかれの部下が降りるのを許可した。
「それでは、そのほかの全員を乗船させてください。生命維持装置が停止するまでどのくらいの余裕がありますか?」
「一時間ぐらいでしょう」
「ミスター・ヴァンダーバーグ、第三十三層の基点に集合して、<フジミ>の保安部員と組んで行動してください。
われわれはあなた方より、優れた武器を持っていますから、必ず、目の届くところで、行動するようにしてください。
飯田副長と僕が通信機を使って全作戦の指揮します。異議はありませんね」
「わかった。われわれとて、自殺行為をしたいわけではない」