惑星「ジェイナス

 僕たちはいったん船に戻り、作戦室で検討を開始した。
「妨害工作だとすると動機が考えられない」
 と副長の飯田さん。
「えーっと、クリンゴンの破壊工作とかなら、利害は一致っす」
 と五十嵐くん。
 まあ、連邦政府が困って喜ぶのはクリンゴンか、ロミュランかって程度だよな。
「まじめにやれよ、先輩。勤務評定のマイナス要素にすんぞ」
「ジョークっすよ〜。雰囲気を良くしようとしただけで〜。きっと怪物の仕業っす!」
 無理やりまじめな顔を作ってきっぱり言ったが、どうみても、根拠のある発言ではなさそうだ。
「しかし、怪物の仕業というには腑に落ちない点が多すぎます。第一、怪物がどこから急に現れたというんです?」
 圭が五十嵐くんにというより、全員に向かって問うた。
「怪物がいるとしたら、動機は『この惑星から開発者たちを追い出したい』じゃないかな?」と僕。
「しかし、この星の開発は百年近く前からです。どうして急に追い出す気になったんです?」
「いや、思いつきに過ぎないんだ。でも、『怪物』はいるんじゃないかと思う」
「根拠はありますか?」
「根拠というか、ミスターアペルがT型フェイザーで撃ったと主張していることがヒントなんだ」
「妨害工作を隠そうとしているだけかもしれないぞ?」
 と飯田さんがまぜかえす。
「ヴァンダーバーグ氏を失脚させて責任者になりたいとか、どうだ?」
「そうじゃなくて、問題は撃たれた怪物がなぜ平気だったのかですよ」
「なぜです?」
 圭が横道にそれそうな話をもとに戻すために質問する。
「ええと、T型フェイザーは『殺人レベル』にセットされると炭素を基とする有機化合物であるたんぱく質を凝集させようと働く。
 もし、問題の怪物の肉体を構成する有機化合物が炭素でなく珪素を基にするものだったとしたら?」
「珪素ですか?…たしかにT型フェイザーは効果はかなり薄いでしょう。しかし、珪素生物ですかね、それはありえるのですか?」
「以前から単純珪素の有機物は数多く知られているよ。それに、このことは酸の混合液の説明も考えられるんだ。珪素は水溶性でないから、王水がこの生物の基質だとする。そして弗素は珪素に対して親和力が強いから、その結果がテルフォンで、それがこの生物の管状器官をつくっているかもしれない―――ただの仮説だけどね」
「えぇ?……それって、怪物には酸の袋かなんかを体内に持ってて、スカンクが臭い液をかけるみたいに酸をひっかけるんっすか!」
 …分かりやすい説明をありがとう、五十嵐くん…。でも、そんなとこだよな。
「つまりきみはこの生物が自分の体液で殺人をしてまわっている、といいたいのですか」
「犯人がその生物だとしたら、そうかもしれない」
「・・・なるほど。そして、仮説どおりだとすると、それはトンネルに依存していない」
「依存していないってのは?」
 と飯田さん。
「ドクトルの仮説とおりなら、その体液で好きなようにトンネルを掘ったり、物を溶かしたりできるのです。不可能犯罪も新しい抜け道を作れば簡単なことです。何人もの犯人が酸の入った大きなタンクを持って見つからずに移動しているというより、現実的ではありませんか?
 そして、その生物は必然的に石のように硬い表皮を持っているということを暗示している。武器をU型フェイザー(ライフル型光線銃)にしましょう。出力を上げれば対抗できるでしょうから」
「そして、トリコーダー(探査&記録機)で珪素生物を捜査すれば、発見できるかもだな。例え、怪物がいなくとも行動しなければ事態はかわらんしな」
「では、その線で捜査を開始してみましょう」


 珪素球が発見された地層からはじめるべきだと思うと僕はそう主張した。
「なぜです?」
 何を知っているんですという目で見られたけど、知っているわけじゃない。
「珪素生物よりもっと、根拠がないからあてずっぽかな」
「まあ、どこからはじめても、同じですからね」