「悠季、つきましたよ」
「うーん、ついたー?」
「はい、起きて下さい」
「起きられないよ。起こして―」
普段の彼とは違う、幼子のように舌足らずな甘い声。
「はい、お手をどうぞ。おっと危ない。手をこちらに」
手を引いて立ち上がらせると、まだ眠気の去らないらしい彼に肩を貸して家の中へと連れ込んだ。
くすんと鼻を鳴らして子犬のように僕の首筋に顔をすりつけてきた。
「・・・・・君の匂いがする」
ああ、なんてかわいらしい。
いつものセレモニーキスをすると、甘い舌が僕を誘ってきて感激した。このまま続けてくれと暗黙のうちにねだってくれている。
時々こんなことがある。上出来な演奏が出来た時、高揚感が興奮を煽り、そのままセクシュアルな感覚をもたらすことが。
しかしここは玄関先で、このままセックスになだれ込んでしまっては執事としてあるまじきことになる。
「まずは中に入りましょう」
家の中に入ると音楽室に引き込まれた。そのままソファーに座ると僕のからだを引き寄せて来る。
これほど積極的に僕を望んでくるとは。
僕にとっては喜ばしい状況。ただし、彼に明日の予定がなければだが。
執事となって今日一日彼のスケジュールを預かった以上、彼自身からも明日の予定を守らなければ・・・・・ならないのだが。
甘いくちびる。熱くなめらかな舌が僕の口腔をさぐってくる。しなやかな腕と足が僕のからだを抱き寄せて離さない。
「ねえ、圭・・・・・。ここでがいい。がまんできないんだ」
少しかすれてささやかれる声のなんと官能的なことか。
ただでさえ彼の魅力に抗する事など出来ない僕に、これ以上の我慢は出来そうもない。
彼の服を手早く脱がせるとそのまま抱き伏せた。
「・・・・・ああ、圭・・・・・っ!」
しなうからだはほんのりと色づき、いつもよりも色めかしい肌にくらりと理性が飛びそうだった。
鎖骨に赤い所有印を残し、愛らしい乳首をしゃぶると小さな悲鳴と吐息が耳をくすぐる。
彼自身を握り取って愛撫しようとすると、ぎゅっと僕の手をつかまれた。
「だ、だめっ!いっちゃう・・・・・からっ!」
うるんだ瞳がにらんでくる。ああ、そんなふうな目で見られたら手加減など出来なくなります!
僕は彼の足を抱えあげるとひざにキスを落して更に悲鳴をあげさせた。
先走りでしっとりと濡れた彼のペニスはもう限界になりそうで、ふるりと揺れた。
しかたない。僕の方も限界に近い。
僕は先走りにじっとり濡れている僕をぐっと押しこむと、さあっと全身に戦きが走っていった。
熱くうねって僕を包み込み、ひきしぼってくる。
ああ、なんてすばらしい!
「も、もう・・・・・!いっちゃう・・・・・!」
見開いた瞳はうつろで、生理的な涙がはらはらとこぼれていくだけ。
舐め取ると涙さえどこか甘く感じられた。
「あっ・・・・・ああ・・・・・ああっ!」
深いため息とともにけいれんし、そしてぐったりと弛緩した。たまらず僕も続いて彼の中で果てた。
「悠季・・・・・?」
疲れ果てた悠季は、そのまま気を失うようにして眠ってしまっていた。
なんてことだ。これでは執事失格ではないか。自分の欲望に負けてこんな場所で失神させてしまうなどとは!
せめてもの慰めは、1回で済ませたこと―――悠季が気を失ってしまったせい―――で、さほど明日の負担にはならないだろうということだろうが・・・・・。
僕は悠季のからだを綺麗にすると、大切に二階へと運んでいった。
翌日、会場まで送っていった僕は、元くんに悠季を渡して執事の役目を終えた。
リハーサルのために舞台へと出るのを見届けていると、会場に来ていた宅島がまじめな顔で僕に話があると言い出した。
「親方のことだが、ちょっとマズイんじゃないのかい?」
「何か問題がありますか?」
「とぼけるなよ。元の方からも連絡が入っているんだ。
彼はそのケがない俺でもくらっと目が離せないような時があるぞ。
舞台が終わって帰ってきたときには特にだ。疲れている上に感情の起伏が激しい舞台の直後だからだろうが。
特に最近はその気配が濃かったってな。それは俺よりもお前の方がよく分かっているんだろう?」
「ええ」
僕は苦笑いするしかない。
「男でも女でもあの彼を見れば惹かれてしまうだろう。そりゃあ彼自身のためにもならない。リサイタルを開くのは彼のバイオリンを聞かせるためであって、容姿や色気を見せるためじゃないんだからな!」
「分かっています。演奏をする上で感情を解放する必要があるわけですが、悠季の場合まだ慣れていないために程度が分からないので影響が出ているのです。
コンサート中、曲を全力を尽くして演奏すれば聞いている方も疲れてしまう。
力を込めて弾く曲もあれば、余分な力を込めないでさらりと軽く弾く曲もあるといった、緩急をつけた力の配分を覚えるまでのことです。
今はそれを体得しようとしている最中なのですよ。まだうまく出来ないためにコンサートを開くたびに疲れ果ててしまうことになり、その余波で終わった後には誰彼かまわず目を惹いてしまうような色香も漏れ出してしまうというわけです。
もう少しすればセーブが効くはずなので、それまでの間、彼をガードする必要を感じて、こうやって彼のそばにいるようにしているのですがね」
「まあそういう理屈なら分かるがな。しかし今日の色気はそれだけじゃないんじゃないか?」
「はて、何かありますか?」
「ばかやろう!親方のスケジュールと体調を守ることもマネージャーの仕事だ。昨夜の臨時執事を買って出た以上、きちんと最後までつとめておけよ。恋人同士だからってなにもかも忘れていいってわけじゃないだろうが!」
「・・・・・重々承知しています」
「それが出来ないようなら二度と執事なんて任せられないからな!」
「分かっています。二度とこんなことがないようにしますよ。僕の心の平安のためにもね」
「やれやれ頼むぜ」
「あの色香は僕の独占物ですから、他人の目に晒すことはできませんね」
「・・・・・聞くんじゃなかったよ!」
宅島はあきれたように首を振って、そそくさと控室を出て行った。
圭の誕生日&結婚記念日のお話としてUPするつもりだったのですが、ずいぶんと遅れてしまいました。
なんとか甘い話に出来ているでしょうか?