「圭、帰ってきて・・・・・っ!」
僕は自分の声で目を覚ました。
びっしょりと冷や汗をかいている。目を覚ましたのは普段起きるような時間じゃなかった。なにしろ、窓の外に綺麗な月が出ていて、外は静まり返っているという時間なんだから。
「嫌な夢を見ちゃったなあ」
今回、圭のコンサートツアーが長かったせいだろう。彼がいつまでも帰って来ない夢を見ていたんだ。
僕は涙がにじんでしまった目をごしごしとこすりながら起き上がった。
「あ、あれ・・・・・?」
ベッドの隣を見て混乱した。
えーと、昨日は講習会がようやく終わって家に帰り着いて、でも圭の帰ってくるのは明日だしフジミの練習も無い日だからってシャワーを浴びたらすぐにベッドにもぐりこんで眠ったんだった。
それなのにどうして僕の隣には圭が眠っているんだ?!
いつだったか、僕が合宿から帰ってきたとき、目が覚めたら夜で隣に圭が眠っていたってことがあった。僕が気疲れと雑用の多さで疲れはてて爆睡したせいで時間の感覚が狂ったんだ。もしかしたらその時の夢を見ているのかと思った。
早く圭に帰って欲しいという願望が見せた夢。
でも、どう考えても今の僕はちゃんと起きてるんだから、これは現実なんだ。ほっぺたをつねっても ちゃんと痛いからね。
「ということは、もしかしてまた寝すぎてしまったせいで、日付が変わっていて、圭が帰ってきていた・・・・・とか?」
彼が帰ってきたときは、必ず迎えに行こうと思っていたのに。
僕は急いで手探りで枕元にある目覚まし時計を手に取った。これにはアナログの文字盤と共に、デジタルの文字盤とカレンダーもついている。
時々僕が日にちを混乱させてしまって、圭に聞いて確認するというのを繰り返していたんで、圭が買ってきてくれたものだ。
さて、今日はいつだ?
「ん?これだと圭が帰ってくるのは確かに今日の夜、だよなぁ」
カレンダーの数字は僕が眠ってから数時間が経っているけど、僕が密かに疑ってたような24時間寝ていたというわけじゃないことを教えてくれた。
「ということは、圭は予定よりも早く帰ってきてくれたんだ!」
きっと宅島くんに無理をさせて帰ってきたんだと思う。申し訳ないけど、とても嬉しい。
僕は圭を揺すって起こそうと思ったけど、手を止めた。圭が僕を起こさなかったのは、僕が講習会で疲れているのを気遣ってのことだろう。彼自身も長いコンサートツアーで疲れているに違いない。だから彼がすぐそばにいる幸せを満喫する事にしたんだ。
僕はベッドにもぐりこみなおすと彼のふところに身をすりよせた。久しぶりに彼のたくましいからだに触れて安堵する。彼のぬくもりがすぐそばにあるだけでも十分幸せになれる。
ああ、圭の匂いだ・・・・・!
「・・・・・んむ・・・・・?」
圭は眠ったまま僕のからだを抱き寄せてきた。まるでぬいぐるみを抱き寄せようしているかのように、僕のからだを腕枕に抱きしめて、腰を引き寄せて更に密着させようとしている。
それは僕も大喜びだ。すすんで彼に抱き寄せられた。
目を閉じてもう一度眠りに戻ろうとしていたんだけど、圭の手はそのままおとなしくしてくれなかった。ゆっくりとしたしぐさで手を滑らせてくる。更に僕の首筋や肩甲骨に沿って背中を滑り降りていく。
「圭?」
声をかけたが返事はない。きっとこれもまた無意識のなせるわざ、彼は今夢の中で同じことをしているんじゃないだろうか。
今度は圭は僕の双丘に指を忍ばせてきた。さすがにパジャマの中には入ってこようとするのは阻止したけど。
「こ、こら!」
僕はあわてて彼の手を払おうとしたけど、ダメだった。例えパジャマの上からでも、彼の意識がなくても、圭は僕の弱いところを熟知している。
「・・・・・あうんっ!」
思わずあえぎ声が出てしまう。僕の手が緩んだ隙に彼の指がパジャマを潜り抜けて入ってくる!
僕のどこを触れば熱くなっていくか分かっていて、確実にポイントを攻めてきて僕をあえがせてしまう。
彼とのセックスが久しぶりの僕のアナルは ―― 久しぶりだからこそかもしれないけど ―― いつもよりはキツイ。でも迎え入れたあとは、以前よりも快楽が深かった。
「・・・・・け、圭。本当は起きてるっていうわけじゃないよね?」
そう疑わしく思えるくらい、彼の指は執拗だった。
「あ・・・・・あんっ・・・・・!」
目の前がちかちかする。眠っている人間が無意識にやっている行動のせいで、どうして僕がイカされなくちゃならないんだ!?
起きているなら嬉しい行為だけど。
「圭っ!」
僕は必死で彼をゆすったけど、眠りが深い彼はぜんぜん起きない。なのに、彼のソコは僕と同様に熱をもって硬くなってきている。
彼の指がこれ以上追いあげてイカされてしまうのを避けるために、僕は身をひねると急いで起き上がった。圭も起きるかと思ったけど、疲れているせいかそのまま眠っていた。
「まったく、疲れているんだったらおとなしく寝てればいいのに」
僕はぶつぶつ言いながら深呼吸をして下半身に溜まってしまった熱を追い散らした。そしてついでに乾いたのどを潤す為に台所へと降りて行った。コップになみなみと水を汲んで飲み干すと、ようやく意識がすっきりとしてきた。
「圭はなんで早く帰ってくるってことを教えてくれなかったんだろう?」
ベッドの中の圭に会ってびっくりする、なんてことがなくて済んだし、彼の笑顔を見てお帰りなさいも言いたかったのに。携帯に電話をくれれば・・・・・。
「あ、僕の携帯は、確か家に帰ってきたときピアノ室に充電のために置いてきていたんじゃなかったかな」
記憶のとおり携帯はピアノ室に置いてあって、充電はとっくに終わっていた。
履歴を見てみると、何度も圭から電話がかかっていたことを示していた。欧米からと日本からと。
何度も。
僕が講習会に行っているときや、家に帰っても置いたまま寝てしまった後だったらしい。講習会はいろいろと雑用があったので携帯を見ている暇がなくて、ほとんど電源を切っていたし、家に帰ったら疲れ果てて携帯を見てみる気力も失せていた上に、充電まで切れていたんだ。本当になんて間が悪かったことか。
僕は圭に文句を言ったことを深く反省した。君はちゃんと僕に知らせようとしてくれていたのにね。
携帯には僕宛のメッセージまで入っていた。
『悠季、ようやく日本に帰れます。パーティーを抜け出して一日早く帰れることになりました。君の講習会の終わりと重なるでしょうから、迎えに来てくれなくてもいいですよ。疲れている君に無理はさせたくないですから。ああ、早く君に会いたい!君の瞳の中に僕が写っているのを見たい!ぎゅっと抱きしめて君のしなやかさを感じたい。君の肌の香りを聞いて口づけしたい。君の中に包まれて、君の熱さを感じたい・・・・・!また日本に到着したら電話します。・・・・・愛しています、悠季』
「う、うわぁ・・・・・!」
耳元でささやかれる言葉は、僕の鼓膜をくすぐり、更にからだにじんわりと熱い波を広げて、下半身がじんわりとしびれるように感じられた。
「うん、僕も早く君に会いたかったよ。でも無理をさせたんじゃなければいいけど」
僕は彼のバリトンでささやかれている伝言を全部聞いてから、寝室へと戻っていった。
ベッドに戻ってみると、圭は僕が起きた時とまったく変わらない姿で眠っていた。
ベッドサイドにはティーカップが置いてあったことに気がついた。ちょっと中をのぞいてみるとかすかにブランデーの甘い香りがする。きっとこれでブランデー入りの紅茶を飲んだんだろう。
嫌だな。僕の間抜けな寝顔を見ながら、お茶してたのかい?
彼の端正な顔を見ているうちに、僕の中の悪戯心が騒ぎ出す。彼は疲れているかもとちらりと思ったけど、さっき彼に悪戯されたことを思い出して、ためらいを捨てる事にした。
「いつも僕ばっかりがイかされるんじゃ不公平だよな」
普段の僕なら絶対に思いつかないこと。というより、思いついても実行しようとは考えないようなことだった。
先ほど眠ったままの圭にあえがされた責任をとってもらおうじゃないか。僕の奥にはうずくような熱が溜まりかけているんだ。
その日の僕はとても快感に素直だった。
一緒に暮らしている間には、圭に寝起きを襲われてそのままセックスに突入したことが何回かあった。そうやっていつも圭から誘われているけど、今日は僕の方から圭を・・・・・その、襲ってもいいんじゃないか?もし彼が眠ったままで起きなければ諦めるし。
あとから考えると、もう赤面ものの考えだったんだけど、そのときはとてもいい考えに思えていた。
僕は起き上がると、パジャマを脱いで彼の上に覆いかぶさった。彼は最初から何も着ていないから楽なものだ。
圭のなめらかな肌に唇を寄せた。少し汗ばんでいるうなじや鎖骨に鼻を押し当てて匂いを聞き、丹念に舐めて彼の肌を味わう。
いつも彼が僕にしてくれるように、あちこちにキスを落とした。僕と違ってあまりアトが残らないけど、それでもきつく吸い付けば赤くキスマークがついていく。
もちろん彼の胸の飾りに丹念な愛撫も怠らない。口に含んだり軽く咬んだりすると、彼が身じろいだ。
「・・・・・ん・・・・・ふっ」
ふふ、感じてくれてるね。
僕は彼のへその周りをぐるりと舐めると、更に下へと降りて行った。
今は少ししか昂ぶっていない彼の中心を手に取った。彼のモノはこうやって眠っていても大きい。いつもよくこんなモノが僕の中に入るなあと苦笑いが出てしまう。
彼が僕のやっていることに反応しなければこのまま諦めるつもりだった。でも、僕の不器用な動かし方でも、ぐぐっと大きくなっていく。・・・・・いつでも僕の中に入れるように。
濃い茂みをかきわけて、少し熱を持ち出している彼自身を口に含んだ。
相変わらず大きくて熱くてなめらかなしゃぶりごこち。彼を愛撫しているはずなのに、自分自身を愛撫しているような倒錯的な気分になりながら、更に熱心に彼を昂ぶらせていく。
「ゆ、悠季!?」
僕が目を上げると仰天している圭の顔があった。いつものポーカーフェイスを作ることも出来なかったらしい。
「・・・・・どうしたんですか?」
おや、少しおびえている?
それって僕に言えないようなことをしてきたからってわけじゃないよね?
僕は返事をしないでまた彼への愛撫を再開した。目覚めたからか、彼はすぐにぐんと大きくなって先走りまで滴らせ始めた。
「ゆ、悠季・・・・・っ!」
圭のあえぎ声が切迫する。
僕が強めに吸うと、彼は我慢しきれずに迸らせた。
「うわっ」
濃厚で大量のえぐみが僕ののどの奥にあふれた。
「す、すみません!大丈夫ですか?」
圭があわてて謝罪してティッシュを差し出したけど、僕は首を横に振るとむせそうになったのをこらえて飲み下した。
「いったいどうしたんですか?君が積極的に僕を求めて下さるのはとても嬉しいですが」
圭は先ほどまでの不安そうな表情を消して、とろけそうな笑顔で僕を引き寄せた。
唇を重ね、舌をからませて濃厚なキスを味わう。彼のソコはもう次に備えてスタンバイを開始しているのが僕の太ももに当たるモノでよく分かる。
「ちょっとね・・・・・。お帰りなさいをやってみようかなと思って」
照れ隠しにそんなことを言ってみた。
「嬉しいですよ」
そう言って僕のバックに手を差し伸べてきた。
「待って、今日は僕がやる」
そう言うとベッドサイドの引き出しに入っているジェルを取り出して、急いで自分の奥に塗りこめた。自分で自分をほぐすのは恥ずかしいし難しいけどそうしたかったんだ。
「・・・・・ん・・・・・ん・・・・・」
何とか頑張って一人でやろうと思っていたんだけど、無理な体勢としばらくの間抱き合っていないせいかそこが固くなってしまったので、なかなかうまくほぐせない。それどころか、必死になればなるほどきつくなっていくようで、感じていたはずの興奮まで収まってしまった気がする。
圭に助けを求めなければいけないかと考え始めた。このままだといつまでたってもほぐせそうにない。
「・・・・・けい」
彼は余裕の表情で、とても楽しそうに僕のしていることを見ていた。時折僕の腰を撫でたり僕のモノに触れたり。
そのときの気持ちってどういうことだったんだろう。
きっと昔の彼はこんなふうに余裕で恋人との夜を過ごしていたんだろうと頭の隅をよぎって行った。大人の駆け引きを楽しんでいただろう彼が想像できた。
とてもリアルに。
なんだか急にひどく恥ずかしくなって彼の視線がいたたまれなくなってしまったんだ。
「・・・・・やめる」
「悠季?」
僕はまたいでいた彼のからだの上から逃げ出そうとしたんだ。それまで感じていた欲情や圭を好きにしているという高揚感はあっと言う間に消し飛んでいた。
もう何もかもよくなってしまって、その場から消えてしまいたかった。
「待ってください!いったいどうしたというのですか?」
ベッドから降りようとしている僕の腕を圭が捕まえていた。
「ごめん。今日はもう無理みたいだ。鎮まらないんだったらもう一度口でしてあげるから、もう今日は」
なんだか泣きたいような気分。
「悠季。そういうことではありませんよ」
圭がためいき混じりに言った。
うんざりしているんだろうな。いつもなら恥ずかしがって自分から求めるなんてほとんどしたことがない僕が急に積極的になった上に、突然途中でやめてしまうなんて、僕が彼の立場だったら振り回すなって怒り出すかもしれない。
「もしかして、僕が浮気をしたんじゃないかと疑いましたか?」
「えっ?ち、違・・・・・」
そんなことをまったく考えなかったといえば嘘になるかもしれない。確かに僕は彼が長い間コンサートツアーに出かけると不安になる。圭ほどのハンサムでかっこいい男が一人きりで昔の恋人たちがいる欧州に出かけているんだから。
でも、今のこの状態はそんなこととは関係ない、と思う。僕の中のわけの分からない感情が引きずり回しているんだ。
「ねえ悠季。こういう行為は二人が愛し合っていることを確認する為のものでしょう?僕一人が気持ちよくなってもつまらない。君だけでも同様でしょう。互いを信じあって感じあうものだ。自分だけで楽しんでも仕方がない」
「う、うん」
「こうやって互いに触れ」
圭の手が僕の肌を滑っていく。何度も彼の手に触れていて良く知っているはずなのに、まるで初めてのように感じている。
「こうやって味わう」
圭の唇が僕の唇に押し付けられて僕の口腔を好きなようにかき回していく。
そうやってゆっくりと僕を愛撫してくれているうちに、僕のからだから緊張感が落ちていった。
「君も自分の好きなようにふるまっていいんですよ。君が大胆なポーズで僕を誘ってくださればそれは僕の喜びとなる」
圭の手が僕の後ろへとまわり、奥へと差し込まれた。
「・・・・・あっ」
知らないうちに僕の口からため息がこぼれた。
先ほどの恥ずかしさやいつもの自分とは違うことをしている嫌悪感はなくなっていた。
「見せてください。君が僕に欲情している姿が見たいんです」
いつもなら落ち着いたバリトンがかすれて欲情しているのが分かる。
「う、うん」
僕は彼の腹の上をまたぐとまたほぐしにかかった。今度はちゃんと出来るだろうか。
「それは僕にまかせて」
彼の長い指にはいつの間にかジェルがまといつけられていて、僕の奥にゆっくりと入り込んでいった。彼の指に慣れている僕のそこはすぐに緊張を解いて、彼の指の思うがままにほぐれていく。
「・・・・・あっ・・・・・あ・・・・・」
「そろそろ大丈夫ですか?」
僕はうなずくと、彼の昂ぶりに手を添えてゆっくりと腰を落としていった。
「・・・・・いっ・・・・・う、うん・・・・・っ!」
久しぶりの彼はとても大きくてきつかったけど、全部をおさめてから何度も深呼吸をして馴染むのを待っていた。
「悠季」
彼の熱い声がキスをねだる。まるで僕が彼を犯しているように、彼の声がかすかにふるえている気がした。
熱くて官能的なキスを味わいながら僕は腰を上げた。そろそろと抜き出すと、ざっと鳥肌が立つような快感が起きる。
「・・・・・ん・・・・・んっ・・・・・うんっ!」
「悠季・・・・・っ!」
彼の声が切羽詰って聞こえる。僕は腰をまた落として奥まで彼を迎えるとその圧倒的な質量に思わずあえいだ。
「ね、ねえ。い、いいかい?気持ちいい?」
ピッチをあげて腰を振る。内壁をこすり上げてくる快感に息が切れ目がくらんでくる。
「ええ、とてもいいです・・・・・!感じてます・・・・・悠季、悠季・・・・・っ!」
「も、もう・・・・・!」
「ええ、一緒に・・・・・!」
僕はいつの間にか僕を握っていた彼の手の中に吐き出し、彼は僕の中に打ち出していた。
「・・・・・起きられない」
昨夜の狂態のツケが来て、僕はベッドから起きられなかった。もっとも体力には人並み以上の圭も昼過ぎまで眠っていて、二人して時計を見て苦笑していたんだからお互い様というところだろう。
「すばらしいサプライズでした。こんな歓迎でしたら何度でも希望しますよ」
そんなささやきを僕の耳に吹き込んで、ちゅっとキスをして圭はシャワーを浴びに行ってしまった。
「無理だって。昨日の僕はきっとどうかしてたんだよ」
僕は圭に聞こえないのを承知でぼやいていた。
昨夜は何度も「もう許して」を言わされていた。最後には僕が気を失ってようやく終わったんだから。
でも、僕が圭を好きなように征服しているような高揚感と優越感はそうそう味わえるものじゃない。
とは言っても、そんな僕の姿はかえって彼を張り切らせてしまうみたいだから、逃げるしかないかもしれない。彼の体力に付き合ってはいられないから。
僕は二度と圭に仕掛けようなんて考えないことを心に誓っていたんだけど・・・・・。
圭は味をしめてしまったらしい。しまったなぁ・・・・・。
僕は深く深くため息をついた。
「夢のうたかた」の甘い裏編です。 悠季の迫り受け、多少駄々っ子モードですね(爆) |
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2008.6/27 up