「悠季、悠季」
悠季は、声には出さなくても全身で応えてくれた。
いや、声はもう出ないのだろう。あえぐことに夢中になって。
僕の手の中の悠季は、声だけでとろりともう薄くなっている蜜をにじませ、僕を呑みこんだソコがきゅぅっと締め付けてきた。
もうだめだと、首を振り態度で否定しながら。
だからまた僕は彼のイイところを探したくて彼に無理をさせてしまう。
しっとりと汗ばんだ肌のあちこちに唇を寄せると、戦きが感じられた。 濡れた肌が熱くなって、吸いつくようになじむ。
甘く噛んでも、少し荒っぽく彼の肌を愛撫しても、彼のからだをそれを愛撫として変換してしまうらしい。
ぱたぱたと頭をふりたて、ぐっと逸らすと全身が痙攣していく。もう限界が近いのだろう。
力なく伸ばされてきた彼の指が僕の肩をかきむしる。
ぴりりと痛む刺激さえ、更に僕を駆りたててしまう・・・・・。
僕たちは快感を分かち合って飛翔し、甘い墜落を共にする。
抱き合っていた腕を解き、彼の中から抜き出す時、名残惜しそうに僕を離すまいとする。
無意識なのだろうが、切なそうなため息が悠季の唇からこぼれ落ちた。
僕は悠季のとなりへとからだをどけた。
このままずっと彼を抱いたままでいたいところだが、ぐったりと力なく仰向けになったままのからだに僕の体重は重すぎるだろうから。
ましてや彼のため息に反応してまた力が与えられてきたなど・・・・・。
だめだ、これ以上の負担は悠季のからだがもたない。
「悠季、大丈夫ですか?」
ぼうっとかすんだような眼は、放心して今まで与えられていた快楽を追っているように見える。
二人のからだが重なっていた時には感じなかったひやりとした皮膚感は、僕たちの関係の微妙さを表しているようにも思えて、何とも切ない。
僕の声に黒い瞳がこちらを向いた。
しかしまだ意識ははっきりと戻ってきてはいないのだろう。いつもなら、こんなふうに無防備に僕を見つめ返すことはないのだから。
羞恥心の強い彼は、恥ずかしげに眼を伏せてしまうはずだ。
ほら、瞬きを何回か繰り返しているうちに表情が改まり、すいっと視線が避けられた。
「・・・・・あー、うん。先にシャワーを使うよ」
悠季の声は語尾がかすれていて、先ほどまでの情事を思い起こさせるような艶めかしさだ。
「ええ、どうぞ」
のろのろとからだを起してベッドから立ち上がったとき、ちょっと顔をしかめた。足の間を伝っていく残滓が不快だったのだろう。
そのまま足早にバスルームへと消えていった。
手伝いましょうという言葉を―――――――― 口にすることはできなかった。
僕との関係を受け入れて、ようやく僕の恋人になってくれた悠季。
僕からの愛の言葉を恥ずかしげに、でも嬉しそうに受け取ってくれるようになってくれた。
しかし、男同士でこうやってからだをつなげることには未だに抵抗があるのかもしれない。世間体やモラルが彼の中で重い位置を占めている彼には。
僕が現われなかったら、おそらく普通に女性と恋をして結婚もし、子供ももうけていたに違いないのだから。
それは僕の罪悪感。
ヒトという種族の、子孫を後に残すという使命から外れてしまった罪への。
だが僕は彼を見つけてしまった。彼を捕まえ、もう手放すことなど考えることも出来ない。
そして悠季もまた僕が伸ばした手を振り払うことなく、受け取ってくれた。
ならば、この罪は僕が背負っていくべきもの。
君は僕の腕の中で目をつぶっていればいい。僕からの甘い蜜だけを受け取って、苦みなどはひとかけらも手に取ることはない。
悠季、君は何も悩む必要はありません。
必ず世間の非難や気兼ねから、僕が必ず守ってみせます。
僕は改めて決意する。
これは君という人に恋し、愛した僕の義務であり権利なのだと。
愛していますよ、悠季。心から。