圭Side(白桃)
ホテルの部屋のしつらいは、地方都市のそれにしてはまぁまぁ、といったところだった。
空調の効いた、少し肌寒いか…といったぐらいの室温が心地よい。
夜になって和らいだものの、流石に真夏の外気はかなりなものがあった。
まったく、この時期の地方コンサートは勘弁してもらいたい。
シャワーを使い、バスローブは羽織ったままでベッドに寝転がる。スプリングが身体を受け止めて、撓むのがわかる。
目を閉じるとエアコンディショナーの風に乗って ふわり と、その香りが鼻孔をくすぐった。
横たわったままでそちらに顔を向けると、香りの正体がライティングテーブルに置いてあるのが見える。
籐の籠に盛られ薄い和紙に包まれた、この地方特産の果物。オケのメンバーの実家が果物農家だとかで、土産に持たされたものだ。
重いし嵩張るので、丁重に辞退したかったのだが、そのものを一目見て考えを変えた。
ほんのりとした象牙色の白桃。大きめの僕の掌にも余るかという程のおおきさの。
きっと悠季が喜ぶだろうと思って、持ち帰ることに決めた。
結婚記念日のお祝にと用意した、富士見の家に置いてあるシャンパンともあうだろう。
悠季の笑顔が浮かんだせいで、贈り主にお礼をいう顔が緩んだものになってしまったのは、もしかしたら失態だったかもしれないが。
起き上がってテーブルにむかい、果実の一つを掌に載せてみる。
たったそれだけの動きでも、その香りはより豊かに立ちのぼる。
細かな産毛に包まれた、優しげなカーブを描く球体は、意外な程にずっしりと持ち重みがする。
『白桃』の名にふさわしい、柔らかな白。
けれど、その産毛が喰わせものだということも、今の僕は知っている。
洗面台に持ってゆき、丁寧にそれを洗い流す。傷の一つも付けないように、優しく。
撫で洗っているうちに、ある確信は深まった。
洗い終えた果実をタオルに包み、ベッドに腰掛ける。部屋の灯りを落とし、ベッドサイドの
それだけにして果実を灯りにかざしてみる。
自分の思いつきが正鵠を射ていたことに満足の笑みが浮かんでしまう。
これは、悠季だ。
確かに彼のそこは、もっときゅっと引き締まっている感がありますがね…
その肌理の細かさといい、この持ち重み、弾力といい…その色合いまでもが、悠季のその部分をそのまま掌サイズにしてしまったかのようで…。
そっと、その表面にくちづけてみる。
果実を縦にはしる窪みに沿って、舌先で辿ってみる。
鼻先に、芳香がまとわりつく。
唇を離すと、思わず指先に力が入ってしまったのだろう、果実の表面に指の跡が、くっきりとついていた。
それが、まるで行為の時の指の跡のようで。
身体のなかに、不穏な火が灯るのがわかる。
悠季、悠季…今、君はなにをしていますか?
…この時間なら、もう風呂も済ませているでしょうね。
そう判断して、僕は、愛しいその人の声を聴くために、ベッドサイドの受話器をとりあげる。