「・・・・・何時だ?」
レースのカーテンから差し込む朝日に目を覚まされたようだ。
僕は枕元の時計を引き寄せて時間を確かめると、やはり起きるにはまだ早い。
一昨日帰国したときの、時差ボケがまだ残っているのかもしれない。
かたわらでぐっすりと眠っている悠季を起こさないようにして、またベッドにもぐりこんだ。
だが、一度冴えてしまった目はもう眠りに戻れないようだ。
一昨日、長いコンサートツアーからようやく戻ることが出来て、その晩はタガが外れたようになって悠季をむさぼってしまった。
悠季は次の日の午後まで起きられなくて、ようやく起き上がると、まぶたにうっすらと青い陰がにじんでいた。
白い裸身の腰のあたりはくっきりと僕の両手の指の跡がついていて、触れると痛いらしかった。
そんな彼を見て、ひどく後悔した。どうして何度も同じことを繰り返してしまうのだろう。
悠季は苦笑とため息交じりで、僕の謝罪を受け入れてくれたが、三日間の謹慎は言い渡された。
「君のことは好きだし、君に抱かれるのも嫌じゃないけど、毎日じゃ身が持たないよ。ちゃんと腰がふらつかなくなるまで少しそっとしておいて欲しい」
確かに彼を腎虚で失ってしまうことになったらと思うと、肝が冷える。身を慎もうと固く思い定めた。
だが、しかし・・・・・。
その決心を破らせようとするかのような魅惑的なものが僕の目の前にあるのだ。
悠季は僕と違っていつもはパジャマを着て眠る。
彼が素肌で眠るのは、僕が気を失うほど抱いた夜がほとんど。
実に魅力的な姿で朝目覚めてくれるのだが、その色めかしいこと。
『いつもその姿で寝てはどうですか?』
僕が提案しても、悠季は首を縦に振ろうとはしない。
『いやだよ。はずかしいじゃないか』
とは、恥ずかしがり屋の彼の言いそうなことではある。
けれど、悠季が着替えている時に見るともなく見てしまう、白くなめらかな肌に散った薄赤いキスマークや、腰のあたりにくっきりとついた青あざは、ひどくそそられてしまうものだ。
今もまた、パジャマの襟元から見え隠れする消えかけたキスマークや鎖骨の魅惑的な影が目を引く。
――――確かに悠季はパジャマを着て寝る方が正解だ。
しかし・・・・・まずい。こうやって見ていると、また誘惑にかられそうだ。
僕はひそかにため息をついた。
彼とセックスすることは禁じられた。バイオリンの練習に差し支えるから起きられなくなるのは困ると。
しかし、僕が少しくらい触るだけなら、構わない・・・・・のではないだろうか?
僕は悠季が目を覚ましたらやめるつもりで、そろそろと彼のパジャマに手を伸ばした。
寝乱れて、夜寝た時にはきっちりと留めてあった一番下のボタンが外れかかっている。そのままはめ直して、見ぬふりをすれば紳 士的だろうが、所詮僕はこんなところで慎もうなどとは思わない俗物なのだ。
外れようとしているボタンの手助けをする。
外すとするりとパジャマの前が広がって、悠季の肌を露わにしていく。
一番上のボタンは強固に外れるのを拒む。
仕方ない。このあたりまでで僕の自制心も限度だろう。これ以上外れればどうなることか。
パジャマの前をはだけさせてなめらかな肌を堪能する。いつも痩せ過ぎていて骨が浮いていると嘆いている悠季の胸は、バイオリ ンを支える為の筋肉はきちんとついている。
二の腕と胸筋、首にくっきりと浮いた腱。割れたりしていないが、張りが分かる腹筋。
彼が男なのだとはっきりと分かる。
僕の指はパジャマに邪魔されていない肌を探りまわり、唇も同様に気持ちの良い肌を味わう。
むずむずと指が動く。
パジャマのズボンを押し下げて、今は眠っているはずの彼自身に触れたいのだ。
しかし、それ以上悪戯をしたら悠季は決定的にふくれるだろう。僕が約束を破ったと。
未練がましく、僕の指はパジャマごしに彼自身に手を伸ばした。
「おや」
意外にも彼は反応していた。そろそろ眠りが浅くなっているのかもしれない。
僕はせっせと布越しに彼を愛撫した。
「・・・・・ん・・・・・ううん・・・・・」
悩ましげなつぶやきが唇からもれる。
今はすっかりと熱くなっている彼の昂ぶりが、更に僕を興奮させる。
じわりとパジャマの前が湿ってきているようだ。
「・・・・・こらぁ」
舌足らずな声とともに、悠季の目が開いた。
少しうるんだ瞳は、いつもにも増して色めかしい。
「おはよう、悠季。お目覚めですか?」
「・・・・・確信犯だろ」
かすれた声が夜の彼のあれこれを連想させてしまう。
「おや、何がでしょうか?」
「もういいよ、僕を抱いて好きにして」
「よろしいのですか?」
「いいも悪いも、後戻りできなくしたのは誰だよ?」
寛大な悠季。僕は彼のやさしさにつけこんでしまう。
僕は、想いを込めて悠季の唇に熱いキスを落とす。
せっかく許しを得たのだ。楽しまなくては。
悠季は、酔っている時と寝ざめの少し寝ぼけている時は強固な自制心もいささか緩む。
理性が戻ってきたとき、頭をかかえてしまうような科白を言ったと目元を赤く染めて嘆くこともしばしばなのだ。
特に、とろりと甘くゆるんだ口ぶりでねだられたりしたら、それこそ僕は理性をうしなってしまう。
今、この時のように。
僕は最後まで抵抗していたボタンをはずすと、そこかしこにキスをちりばめた。
湿って色を変えたズボンもすばやく脱がせる。
朝日に照らされた悠季の姿はなんて美しいことか!
「ね、ねえ。早く・・・・・!」
僕の悪戯のせいで、敏感な彼はもうからだが熱くなっているらしい。
僕は悠季の奥へと指を伸ばし、うめかせた。すでにそこは待ち望んでいて、きゅっと締め付けてみせた。
たまらない!
両手で腰をかかえると、ぐっと押しこんだ。
「ああっ!」
悠季があえぐ。その声にも煽られる!
絶妙な抵抗感と熱い柔襞は、あっという間に僕の余裕を追い払った。
深いところまで押し込んで、また浅くかき混ぜて、悠季の甘い悲鳴を楽しんだ。
朝日の中で快楽に溺れていく彼の姿は、何にもまして僕を恍惚とさせてくれる。
「い、いきますっ!」
「ぼ、僕も・・・・・っ!」
荒く息をつきながらも、僕は悠季に熱いキスを贈り、悠季も僕に返してくれた。
とろりと悠季のまぶたが降りていく。
「・・・・・ごめん。なんだか眠くて・・・・・」
まだ体力が戻っていない彼に無理をさせてしまったようだ。
「ええ、少しお眠りなさい。朝食が出来たら起こしますよ」
「・・・・・うん。ありがと・・・・・」
僕ははつらつとした気分で、愛しい人のために朝食を作るため、起き上がってシャワーを浴びに行った。
栄養たっぷりな食事をとって、今日こそは恋人らしいゆったりした一日を過ごしましょう。
ねえ、悠季。愛していますよ。
他の事なら絶対に約束を破ったりしない圭だけど、ことが僕とのセックスとなるといささか自分勝手な拡大解釈で約束を緩めてし まう傾向にあるようだ。
腰が重だるくて起きられなくなってしまうのは困るから3日間の猶予が欲しかったのに、我慢できなくなってしまったのか、朝早 く起きてしまったのをいいことに、僕の眠っているからだのあちこちに触れていたらしい。
らしい、というのは、僕が気がついたときにはもう後戻りできないほどからだが熱くなっていたからだ。
朝の条件反射とは違う、
圭に教え込まれている――――欲望。
触っただけで強要していないとように、紳士のさわやかで落ち着いた顔で僕が目覚めるのを待っていたけれど、そうなってしまえ ば僕も我慢が出来なくなるのを知っているんだ。
「確信犯」
となじったけれど、この2日間は平然としていて、まるでセックスのことなど知らないといった態度をされて、夜もおやすみの挨 拶のキスだけで眠ってしまった彼がなんだか物足りなくなっていたのは事実で・・・・・。
抱き合ってしまえば、僕も欲しかったんだということが明らかだった。
でも、やはり朝から何度もするのは無理みたいで、また眠りの世界へと引きずり込まれてしまう。
やさしい圭の声が甘やかしてくれる
うん。もう少しだけ寝かせて。
そうしたらちゃんと起きるから。
・・・・・・・・・・・・・・・愛してるよ、圭。
おひとよしの悠季(笑)
それでこそ、悠季なのかもしれませんが。
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2009.11/11 up