昨夜、圭が欧州からのコンサートツアーから帰ってきた。
今回のツアーは数カ国を回るという大がかりなものだったで、圭と会うことが出来たのは本当に久しぶりになってしまった。
電話では毎日のように話していたけれど、やはり声だけと顔を見たり彼のぬくもりを感じているのとは全く違う。
到着口から出てきた彼は、ひどく疲れた表情をしていたけど僕の顔をみると実にやさしい微笑みを浮かべてくれた。
空港では落ち着いた顔をしていたのに宅島君と別れて車に乗ると、つ、とからだをひねって身を寄せてくると、耳元にささやいてきた。
「今夜は君をずっと抱きあいたいです。朝になるまで。いえ、君が気を失うまでにしておきましょうか」
熱くて甘い声に僕は背筋がぞくりとなるのを感じながら、身を震わせた。
怖かったわけじゃない。むしろ、興奮していたからなんだ。僕の態度を見て、圭は目を細めて嬉しそうだった。
だから、二人とも家に帰ってきてドアを閉めて光一郎さんに挨拶をするところまではいつものとおりの平然とした態度だったけど、くるりと振り向いた途端に圭の態度が変わった。
さっと僕を掬いあげて抱きしめると、そのまま寝室へとさらいこまれた。
「ま、待って!食事の用意がしてあるんだ」
「あとでいただきます!今はこちらの方が飢えているんです!!」
そうして、圭は僕のからだをかかえてベッドへと身を投げた。
「・・・・・ああ・・・・・ん・・・・・」
荒い息遣いと、粘った水音がリズミカルに響く。
もう、腕にも足にも力が入らない。
圭とつながっていられるのは、圭が腰骨のあたりを強く掴んで放さないからで、きっと明日になったらうっすらと青く指の痕がついているだろう。
僕は何度も放っていて、圭が愛撫してくれてもうっすらと滲む程度で、反応が鈍くなっている。
汗と疲労でもうほとんど目が開かない。
でも、与えてくれる律動が止まると、僕はまたうめくように「もっと」とつぶやいてしまう。その声が自分でも赤くなるほど甘ったるく感じてしまうのだから、きっと圭を喜ばせてしまったのだろう。
ぐっと僕の中の圭が勢いづいたのが分かったから。
明日はベッドから起きられないだろうといささかうらみがましく思いながらも、喜びを分かち合える恋人を持っている幸福を感じている。
こんなふうに情熱的な恋人と愛し合える夜を持っている人間は、僕の他にそれほどいないんじゃないかとうぬぼれてしまいそうになってしまう。
「何を考えているんです?」
僕が少し上の空になったことに気がついたんだろう。
「あ、あうっ!・・・・・ひっ!!」
圭がひときわ深く腰を引き寄せて突きいれると、耳元に熱い吐息と共に吹き込んできた。
「考え事とは余裕ですね。もう、飽きたのですか?」
ぐりっと腰の動きが変わり
「それとも・・・・・こうして欲しかった?」
僕は思わず彼を離すまいとしてきゅっと腰に力を入れていた。
背後で圭が息を呑むのがわかった。
「あ・・・・・や、やだ!」
彼が僕の腰を引いて、離れていったから僕は悲鳴を上げた。
やめないで!やめないで欲しいのに!!
「ま、まだです!」
僕のからだはあっという間にひっくり返されて、腰を高く持ち上げられていた。
膝が肩に付くくらいに折り曲げられて苦しい。
「くっ!ああ・・・・・あうっ!」
また彼の太くて熱いものが奥まで押し込まれ、僕は思わず背中をそらせて逃れようとしたのを引き戻されて、更に深く注挿を繰り返された。
「圭・・・・・も、もう・・・・・!」
「いきたいのですか?」
僕は必死でうなずいた。もうあそこも前もじんじんと熱を持っている。これが快感のためなのかそれとも苦痛のせいなのか区別がつかなくなっいるけど。
「でしたら腰を使って。・・・・・そう、もっと」
ほとんど動かない腰を必死で動かしていると、腹の中までじくじくとした熱が僕をただれさせていく。
「いきます・・・・・!」
圭が一層深く腰を入れて僕の奥をえぐり、右手に持っている僕を強くこすりながら先のあたりに爪を立てた。
つきりという痛みが、鈍かった感覚を復活させて、一気に背筋に電流のようなしびれが走っていく。
「あ、ああっ・・・・・!」
頭を反らして快感をむさぼっていき、そのまま意識はかすんでいって、僕は気を失っていた。
しまった!またやってしまった。
悠季もここ数日、大学の仕事で忙しかったのを知っていたのに。彼の体力のことも考えずに欲望のままに抱いてしまった。
僕は急いでベッドから起き上がると、洗面所から湯を汲んでタオルと一緒に運んできた。
申し訳ないことに、僕の方はいささか腰がふらついてはいるが、すっきりとした気分になっている。
悠季に負担がかかっているのは分かっているのだが、どうもしばらく離れて暮らしていると、戻ってきたときにタガが外れる傾向にあるようだ。
汗と二人が放ったものに塗れているからだを何度もぬぐって綺麗にしてあげたが、深く眠ってしまったようで、目も開けなかった。
僕は起こさないように注意しながらシーツも取り換えた。交換の仕方も慣れたものだ。
からだが冷えないように毛布をかけて、僕もシャワーを浴びに行った。
「・・・・・ん、けい?」
僕がベッドに入ったところで、ようやく気がついた悠季が舌足らずな口調でつぶやいた。
「まだ夜が明けていませんよ。おやすみなさい」
「夕食、とりそびれちゃったね」
「朝になったらいただきます」
「うん・・・・・」
また眠りに引きこまれていく姿を見ながら、僕は思わず微笑んでいた。
まっさらなからだで僕に初めてセックスを教えられた悠季は、僕が何度も求めることも気を失うくらいに抱き合うことを当然のように受け止めている。
それが普通なのだと思っているのだろうと思うと、いささか後ろめたい。
僕は十代の頃からセックスの快感を知っている。
初めての体験は僕よりも年上の女から誘われたものであり、彼女たちの肌のぬくもりに溺れていたことも認めよう。
だが、それはいつの間にか憎悪と煩わしさに変質を遂げ、最初に出会ったリッチーとの出会いによって救われることとなった。
僕自身の性欲の強さを持て余しながら、何人かのセックスフレンドと言ってもいいような友人と関係を持ち、それでも癒せない渇きをかかえていた。
小粋な出会いとちょっとした言葉の駆け引きと酒。
欧州での遊学中は、それらを楽しみながら過ごすことに満足していたはずなのに、出会いと同様に別れは簡単にやってきて、その関係の希薄さにうそ寒いものを感じていた。
初めて悠季と出会ったときの胸の高鳴りを今も忘れてはいない。
あっという間に胸に満ちた熱いものを、僕はめまいがしそうなくらいの感動で味わっていたのだ。
そして、あの夜。
悠季には災難だった夜は、僕にとって今も忘れられない夜となっている。
後悔と懺悔と――――震えるような快楽。
まるで僕のために用意されていたかのように、ぴったりと馴染む肌。
初めてのはずなのに、とまどいながら快感に溺れていくのを見るのは素晴らしい喜びだった。
どこに触れても反応を返し、何度抱いても飽きない抱き心地。
しかし。
それはあくまでも僕の傲慢な独りよがりでしかなかった。
彼をまた抱こうとし、マンションの床に抑えつけた時に気がついてしまったのだ。
今、この時、彼を抱いてしまったら、二度とあの陶酔は訪れることはないだろうと。
抱いてしまえば、敏感な彼の事。きっと僕の愛撫に応えて、セックスに溺れていっただろう。
しかし、二度と信頼と愛情は得られなかっただろう。やさしい笑顔も透明なバイオリンの音色も喪われていただろうと思う。
だから、僕は諦めた。
諦める、つもりだった。
しかし、様々な出来事のあとに現れた―――奇跡ともいうべきかもしれない―――彼から与えられた深い愛情。
それは僕を日々癒してくれる。
僕の望むように振る舞い、僕の願う通りに反応を返してくれる君。
僕とのセックスがどれだけ濃厚なものなのか知らずに、今夜も抱き合って過ごした。
どうかこのまま、いつまでも淫奔な君でいて欲しい。
そして、君に捧げよう。
極上の夜を。
久しぶりに裏の話を書いたら、悠季がかわいそうな話になってしまいました。(笑)
過ぎたるはなんとやら。いらんってそんな夜・・・・・(*´д`*)
悠季、早死しないでね!(爆)
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