ずるい
「君はずるい」
悠季がなじる。
先ほどまで抱き合っていたベッドの上の会話。
肌のほてりが冷えても、まだ余韻が残っている時間。
ほんのりと赤い眼もととうるんだ瞳で睨んできても、色めかしく愛らしいと見惚れてしまうだけで、少しも怒られている実感がわかない、が・・・・・。
しまった! これはまずい。
どうやら悠季は本気で怒っているらしい。
僕はいったいどんな失態をしでかしたのだろうか?
「・・・・・何がずるいのでしょうか?」
恐る恐る尋ねてみた。
あれこれとここ最近の言動を思い返してみたが、思い浮かばない。
「いつも君が誘ってくるけど、たまには僕も君を誘ってみたいんだよ。
ちょっと恥ずかしいけど、僕だって君のパートナーなんだからね。でも、いつも君が先に誘ってしまうから僕は何も出来ないんだ」
思わず頬が緩み、安堵のため息が出た。
「さっきもさ、僕ばっかり夢中になって、何も考えられなくなっちゃうんだ。
君が僕にしてくれるように、君にもいろいろしてあげたいのに、君に触られるだけでイクことばかり願っているなんてさ」
ああ、なんて可愛らしいことを!
君がそんなふうに気を遣わなくても僕にとっては君の全てが媚薬なのですよ。
「僕にとっては君に奉仕するのがなによりの喜びですよ」
「まあ、僕の感じ方なんてみんな君に教えられた事ばかりだからね。初心者じゃ経験値では太刀打ち出来ないか」
おやおや、話が不穏な方に向いてきたようだ。
「僕の過去などなんの価値などありませんよ。君を夢中にさせているとしたら、それは君自身の魅力ですよ。君が僕を誘っているんです。
君の匂いも、あえぎ声もしぐさも全てが僕を駆りたててしまうのですですから、これ以上のなまめかしさは危険というものです」
「褒め殺し大王の殺し文句が始まったぞ」
悠季が笑う。
「試してみましょうか?」
僕は悠季の指をとった。
「ほら、この指は砂糖菓子のように美味しそうだ。きっとしゃぶったら甘いに違いない」
「こ、こら!」
「甲はなめらかで、いつまでも触れていたい気持ちよさ。そして手のひらの襞をたどり匂いを嗅ぎ、舌で味わう・・・・・」
「・・・・・や、やめっ!!」
「手首の拍動は高まっていき、僕の脈まで高ぶらせてくる・・・・・。
どうですか?今度は君が触れてみますか?」
悠季の手を取って、僕の胸へとあてがった。
「・・・・・・・・・・!!」
ほら、もうこんなふうに脈が激しくなっている。ああ、悠季の手がたどるにつれて下半身にも熱が溜まってくるようだ。
ひじの内側、二の腕の柔らかいところ、そして腋の下・・・・・。触れるにつれて、彼の興奮が増しているのが分かる。
「・・・・・もう一度、いいですか?」
そんな言葉を吹き込んだのは、美味しそうな耳たぶを食みながら。
悠季からは返事がない。
ただ、彼の腕が僕の肩へと投げかけられたから、これ以上言葉を出すなという命令なのだろう。
僕は仰せの通りに、彼のからだを味わい彼に僕を味わってもらうよう専念する。
僕が留意しなければいけないのは、一晩中抱くような無理はさせないこと。
悠季と抱き合うのは、至上の喜びではあるのだが。
次の日にベッドから起きられないような羽目に追い込まないことをいつも心がけているのだが、ついついタガが外れてしまう。
許して下さい、悠季。
愛しています。