とばり
やさしい夜の帳






今日は久しぶりに僕も悠季も時間に余裕が出来た。

ゆったりと流れる恋人同士の時間。

とっておきのワインと少しのつまみ。

窓の外には満月に少し欠けた月がくっきりと浮かんでいて、少し遅い月見としゃれこんだ。

背後に流れる穏やかな音楽。

天気のことから遠征先で見かけた風景や夕食のメニューについてまで、とりとめのない会話をかわしていた。


それが、ふと途切れた。



音楽だけが部屋を支配している。

僕はなにげなく悠季の方へと顔を向けると、そこには魅惑的な光景が広がっていた。




いつもの彼は澄んだ黒曜石の瞳が表情豊かに輝いている。若いガゼルのように俊敏で優雅な動作は見飽きることはない。

しかし、今はワインの酩酊がおおっているのか、どこか気だるげな動作の一つ一つが僕を無意識に誘っているかのように見え、瞳は極上の黒天鵞絨くろびろうどのように謎めいてどこかへと誘い込むような妖しげな艶を持っている。

僕の視線に気がついたのか、悠季がこちらを向いて不思議そうに見ている。

僕は思わず顔を近づけ、彼からワインの香りのするキスを一つ盗む。

「・・・・・何?」

あわただしく瞬きをして今の僕の行為がなんだったのか、あれこれと思い浮かべているのだろう。

「ワインに一番よく似合うつまみです」

「・・・・・何を言ってるんだか」

あっさりと僕をいなしてみせても、目元に浮かんでくる赤みが彼の動揺を明らかにしている。

では、もう少し動揺させてみようか。

僕は悠季の手を取って、ゆっくりと口元へと運ぶ。

手の甲に軽くキスしたのは、彼に許しを得る為。

悠季が何も言わないのを許可されたのだと解釈することにして、更に彼の手にキスを降らす。

手の甲全体を軽いキスでおおい、そして

「あ、だめだよ・・・・・」

彼の言葉の端々が甘く溶けている。

彼の指をくわえこんでしゃぶってみせると、ぴくりと手を引こうとする。

感じてますね?

人差し指、中指、薬指、小指。

指のまたを舐めねぶってみせると、彼は身を震わせて感じてくれる。

ことに指輪を嵌めている中指と薬指との間は彼のウィークポイントのようだ。

「よせよ」

そう言いながらも潤んだ瞳はもっとして欲しいと言っている。

僕は掌を丹念に舐め、更に手首へと移ろわせていく。

手首に浮かぶ白い腱を舐め上げていき、肘の内側までいくとびくりと肩が跳ねた。

「ねえ、悠季?」

きざした欲望が何を欲しているか、彼にも分かっているだろう。

「ここでこのまま?それともベッドへ行きますか?」

「・・・・・ベッド」

僕たちはカーテンを閉めて無粋な月の視線を封じると、暗闇に隠れ甘い時を楽しむことにした。











彼のからだにキスを降らす。赤い花びらが点々と散る。

今日の彼のからだはどこも甘いワインの香りに満ちているように思えた。

キスして、舌で味わって、咬んで、全てを味わう。

白くて引き締まった双丘が僕の前にご馳走として供えられる。

ぐっと歯を食い込ませると、悠季はすすり泣いた。

「も、もっと・・・・・!」

痛みと快感とが交差し、入れ替わる快楽を彼は知っている。

僕を待ちかねて差し出された蕾に、僕は探りの指を入れる。それはすぐに物足りないと催促してくるので、更に指を増やした。

「ここはもう待ちかねていたようですね。そんなに僕が欲しいですか?」

嫌々をするように悠季は首を振る。それが否定でないことは僕がよく知っている。

「け、圭・・・・・!だ、だめっ・・・・・!いやっ・・・・・!」

指を引き抜くと物欲しげに腰を揺らす。僕の指を追って腰を突き出したところを一気に突き通した。

「ひっ・・・・・!あ、ああっ!!」

背中をのけぞらせ、汗を飛び散らせて声を上げた。

その動きを利用して、彼のからだを抱き上げると僕の膝の上へと下ろすと、高く声を翻して甘い悲鳴を上げた。

「きつかったですか?苦しい?」

僕が彼の前に手を伸ばしてみると、彼の昂ぶりは萎えることなく熱く、僕の手に包まれて脈打っていた。

「あ、ああっ!圭が・・・・・いっぱい・・・・・僕の中に・・・・・いっぱいになってる・・・・・!!」

僕の肩に頭を乗せて、うわごとのように悠季がささやく。少しかすれたその声に含まれる媚態に僕の欲望は更に膨らむ。

「・・・・・いきます!」

「あ、ああ、ああっ!け、圭っ・・・・・!!」

悠季の手が後ろ手に僕の首へと回され、ぐっと力が入って僕を引き寄せた。

いつも丁寧に手入れされているバイオリニストの爪だとは言え、男の力でぎゅっと掴んでいるからには、それなりに痛い。

おそらく後ろ首にはみみず腫れが出来ただろうが、それも今は悦びにすりかわる。

今このときの姿を正面から見たのなら、さぞ色めかしい姿をしていることだろう。どれほど色めかしく蠱惑に満ちていることか。

だが残念な事にこの寝室には鏡がない。

もっとも、シャイで恥ずかしがり屋の彼のこと、僕が見たいと言っただけで真っ赤になって拒否してしまうだろうが。


ああ、見てみたいものだ!!






                          いつか必ず。







                         僕は心に決めた。















Kar様リクエストの圭×悠季のお話です。
私にエロはともかく(←あまり「ともかく」とは言えませんが、それは置いておいて)
山●さんは守備範囲外なので、それらしいところまででお茶を濁しました(;^_^A





2008.11/19 up