炊飯ジャーの精
未完 あらすじ付き
「うん、磨けば、新品同様だよ」
僕はガレージセールで手に入れた炊飯ジャーを磨き上げて悦に入っていた。
少しくらい古くても、これでちゃんとご飯が炊ければオッケイだよな。
僕は守村悠季。東京の音大の二年で、田舎から出てきて一人暮らしの僕は、無理をいって音大へ進んだので、仕送りもぎりぎりで。
最初にそろえた家財道具もほとんど中古だったせいか、炊飯ジャーが壊れてしまった。
炊き上がったはずのお米に芯があったり、ひどいときは、湯でふやけただけのような物ができたり・・・ もう一度、だしの素で野菜と煮ておじやにしたり、中華だしで中華粥ふうにしたり、忙しいときには泣きそうな気分でひと手間かけてた。
けれど、とうとう、まったく壊れてしまった。
ここ数日はナベで炊いてるけど、炊き方はわりと簡単なんだ。
♪は〜じめ〜ちょろ〜ちょろ〜、なか、ぱっぱ。じゅうじゅう、ゆ〜うたら火を引いて、あ〜かご泣いても、ふ〜た取るな なんて、童謡通り。
ただ、目が離せないんで大変なんだ。
リサイクルショップや量販店の安売りを探したりしてたけど、運よく、ガレージセールで安く炊飯ジャーを手に入れられた。レトロなデザインだけど、磨けばきれいになったし、ご飯が炊ければ贅沢はいってられない。
とりあえず、磨き上げたジャーのプラグをコンセントに挿して…
ぼん!
「わぁ!」
黒い煙が!
だめだ!火事になってしまう!
み、み、みずっ!
あ!プラグ抜かなけりゃ!
もくもくと煙を吐く炊飯ジャーに視界を遮られて何も見えないじゃないか!
パニックになった僕の腕を誰かがつかんで煙の外へぐいっと引き出してくれた。
「大丈夫です。落ち着いて」
え!誰だ?
ここは僕の部屋で誰もいないはず?
煙を見て誰か来てくれたのか?
「ちょっと、演出過多でしたかね?」
げほげほと、咳き込んだ僕の背中をさすりながらその男はわけのわからないことをいっていた。
ようやく、せきがおさまって、声をするほうを見上げれば…そう、その声は決して低くない僕の頭の上の方から聞こえていた。
少し面長の浅黒く引き締まった顔に、男らしいきりっとした眉。切れ長の目。ひとことで表すならハンサムで。
その男はダークスーツが似合う男らしい体型で長い手足は日本人離れしていた。
細すぎる体型にコンプレックスを持つ僕はうらやましいその体型につい見とれてしまった。
「きみが僕のクライアントですね」
え?クライアント(雇い主)?
「願いは三つです。無限に関することと、死んだものを生き返らせること、愛に関すること以外は何でも叶えます」
???
「何のことをいってるんだい?それにどこから入ってきたんだ?」
煙を見て助けに来てくれたんじゃないのか?
「僕は桐ノ院圭。魔神です」
マジン?なんだよ、それ?
わけのわからないことを次々言われてパニックする僕を無視して彼は僕がプラグを抜こうとしていた例の炊飯ジャーを示した。
「それは何というものですか?」
「…炊飯ジャーだけど?」
「では、さしずめ”炊飯ジャーの精”というところです。とにかく、きみは三つ願い事ができる。契約完了までは僕はきみの下僕です」
炊飯ジャーの精に三つの願い事?
おとぎ話じゃあるまいし…?
少し考えて、思ったことは…「ともかくお引取り願おう」だった。
「ともかく、僕は午後から学校があるんだ。願い事は考えておくから…」
そこまで、いった時、僕は少し意地悪な気分になっていたので『帰ってくれ』という変わりに、
「きみは炊飯ジャーに戻って待っててくれないか?」
「いいでしょう」
すると、彼は煙のようになって、ジャーの中に吸い込まれるように入った。
ええっ、ホントに煙になった!?
パタンと蓋が閉まると、僕は炊飯ジャーのコードで蓋が開かないようぐるぐる巻きにした。
幻覚だかなんだかわからないけど、捨ててしまおう。
こんな、わけのわからないことに巻き込まれるなんてごめんだ!
つづく・・・かな?
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あとがきにかえて。
とりあえず、続きませんが、せっかくなのであらすじというか、ネタばらしを。。。
圭はあと一人の願いをかなえるとジャーから解放され、そして、元の力を取り戻し、魔族の王になるという野望をかなえたい。
一方、悠季の願いは音楽家になることですが、魔法では誰かのコピーにしかなれない。「xxのようなバイオリニスト」
それ以前に魔法でうまくなっても仕方ないと拒否します。
ということで、なかなか、願いをかなえられない圭は、ずっと、悠季のそばに。
(お約束で)二人はいつしか惹かれあい、愛し合いますが、「よみがえりと、無限と愛にかかわることは叶えてはならない」という、掟をやぶり、事故にあって死んでしまった悠季をよみがえらせ、圭は魔界に幽閉されます。
悠季は助かった命を捨てることで、圭を助け、圭もまた魔力を捨てることで、人間として、二人で生きていくことに。
(悠季が助かったのは魔王(高嶺)が悠季に惚れたからという、おまけ付w)
HAPPY END
仮
(笑)