そはまだくらき
其はまだ昏き








「君がどうしてもそうする、と言うのなら、僕は僕の方法で君を止めて見せましょう!」

ケイは押し殺した声で宣言した。

「な、何を・・・・・?」

次の瞬間、ユーキは自分が床に押し付けられて圧し掛かられて、両手首を片手で押さえつけられているのを知った。

 同じ男同士なのに、両手を彼の片手で押さえられてしまう力の差を知って、悔しさに唇をかんだ。

 だが、そんなプライドなどは、次の瞬間にあっさりと吹き飛ばされた。

 ケイの空いた手はユーキの服にかかり、あっという間に手荒く服を引き裂くと、強引に下肢をつかまれて開かされた。

 止めろという制止の声も助けてという嘆願も、そして、許してという懇願も聞き入れてはもらえなかった。

 抵抗を封じて無理やり下半身にねじ込まれた熱は、激痛を与え内臓までぐちゃぐちゃにかき回されている感触がした。


 ああ、僕は殺されるかもしれない。


 そう思った。

彼の怒りは仕方がない事なのだろうか思っていた。それだけひどいことを自分はしていたのだろうかと。

 だから甘んじてこの凶行を受け入れようと思った。

 だが、からだは心とは別物で、苦痛に抗議し反抗する。なんとか痛みから逃れようとしてあがき、また引き戻された。

「ひいっ・・・・・ひ・・・・・っ・・・・・!」

 のどからは笛のようにひきつった声が出た。

 下肢は自分の血なのか汗なのかそれとも何か別なものなのか、ぬるぬると粘り気のあるものに塗れている。そのぬめりを利用してさらに奥へと熱くて凶暴なモノが押し込まれていく。

「・・・・・う・・・・・っ・・・・・!」

 苦しくて、苦しくて、逃れようのない苦しみから意識を飛ばしたくても飛ばす事さえ許されない。

 だが、時がたつにつれ痛みは鈍くなりどこか違うものへと変質していく。

 それが何かといぶかしく思っているうちに、爆発的にからだの中を満たしていくものがあった。


 これは、快感・・・・・なのか?


 そう思ったとき、ユーキの声はひるがえり、悦びの叫びを上げていた。













「・・・・・・・・・・うっ・・・・・ふっ・・・・・ああっ・・・・・うくぅっ・・・・・!あうっ!」

 夕闇が迫る部屋の中で、二人の荒い息遣いとユーキのかすかな声だけが聞える。

 小さなすすり泣きとともに、粘った水音や肉を打つような鈍い音が、響く。

「・・・・・ひっ!も、もう・・・・・ゆ、許して・・・・・」

 ユーキのかすれた声が自分を蹂躙するものへの許しを請う。

 もうどれくらいの時間、ケイが自分をむさぼっているのか分からなくなっていた。下半身は痛みと共に与えられる快感に甘く重くしびれてしまって自分で動かす事すら容易ではない。

 ぐいっとまたケイが突き入れて、その動きを逸らそうと腰を振ったとたんに快感が走った。

「あ・・・・・ああっ!」

「・・・・・僕は許さない!絶対に許さない!」

 ケイはその言葉をまたつぶやくとユーキをあおり昂ぶらせ何度も堕として、彼が現実に戻ってくる事を恐れるかのように行為に没頭していった。

 気絶する事は許されなかった。

 気絶してもまた揺り起こされて、セックスを強要された。

 何度も体位を変え、足や腰を屈曲したり反らされて。最初は抵抗していたユーキは、いつの間にか彼の言うなりにからだを開いていた。

 セックスどころか人との接触さえほとんどなかったユーキにとってそれは天地が壊れてしまうような恐るべき脅威だった。


 ――僕の全てが崩壊し、改めて組み立てなおされている。――


 ユーキは揺さぶれられながらそんなことをぼんやりと思っていた。

 ケイの手で何度もほとばしらされて、からだの奥の奥から快感を搾り取られた。

「も、もう、だめ・・・・・」

 今度こそ、気絶しても目覚められないだろう。既に手も足も動かせなくなっている。これ以上はどんなに強要されても、もうケイの相手は出来ない。

 ここまで自分をむさぼりつくしたのだから、ケイはきっと満足だろう。そう思っていた。

そのとき、どこかで自分以外の啜り泣きが聞え、ぽたぽたと熱いしずくがユーキの顔に落ちていることに気がついた。

・・・・・何?

涙でぐちゃぐちゃになってはれぼったくなっている目をやっとのことで開いて、何とか目の前のケイを見上げた。

 自分を犯している彼はまるでつらくてたまらないかのように、泣きながらユーキを抱いていた。

 そして、ユーキを犯している態度とはまったく違うやさしいしぐさで、ユーキの額にこぼれ落ちた涙を拭ってくれた。

「・・・・・なぜ・・・・・?」

 泣くのか?

 その言葉は嗄れてしまった喉からはもう出したくても出せなくなっていた。

 泣かないで。

 そう言いたくても言えず、手を伸ばして彼の涙を拭おうとしても、もう手は動かなかった。















 そうして、ユーキの意識は深い闇へと飲み込まれていった。