シャワーの後で・・・・・
蒸し暑い日本の暑さにいささか辟易しながら帰宅すると、急いで寝室のクーラーのスイッチを入れた。
そのままシャワー室へと入り、熱いシャワーを頭から浴びると、心地よさにため息が出た。
本当は風呂桶に入って温まった方が夏ばてしないそうなのだが、悠季が家にいないと思うとついつい億劫になってしまう。
毛足の長い柔らかなオーガニックコットンのバスタオルでざっとからだを拭き、悠季とお揃いのバスローブを手に取った。
羽織る前にちらりと鏡に目をやった。
自分のからだを見つめ、厳しく細部まで点検する。
海外遠征の多い今の生活では、注意していないとついついカロリーが過剰になりやすい。
飛行機での移動で長時間拘束されることや、不規則な食事時間もそれに拍車をかけてしまう。
胸筋や腹筋、二の腕の筋肉もいつもと同様。からだをひねって背中の方も確認する。
どうやらたるみもゆるみも出ていないようだ。
別に自分のからだを眺めてナルシシズムに酔っていたわけではない。
悠季が僕のこのからだを好きだと言ってくれているのだから、変わらぬまま維持していくのが僕の義務であり、大事な勤めなのだと信じている。
ロープを羽織り、ぎゅっとサッシュを締めて、バスタオルと同じ素材のフェイスタオルで髪を拭きながら寝室へと戻ってきた。寝室は快適な温度に冷えており、シャワーを浴びたせいで滲んできていた汗がひいていく。
ちらりとベッドサイドに置いてあるカレンダーに目をやった。
今年も悠季は今朝から大学の夏休み合宿に狩りだされていて、帰ってくるのは3日後。
せっかく8月はオフシーズンで僕の長期休暇の時期に入ったというのに、肝心の悠季の方が留守になってしまった。
悠季は申し訳なさそうにしていたが、どうやら大学時代の先輩だという人物が悠季のコンマスぶりを気に入ったようで、毎年大学で行われるオーケストラスタディの参加要員に組み込まれてしまったらしい。
何とかして断らせたいのだが、頑固で責任感が強く、義理堅い悠季の性格がそれを拒んでいる。
僕は一つため息をついて、ベッドの上に仰向けに寝転がった。
今日は帰日してすぐに空港近くのホテルで雑誌のインタビューを受けたのだが、どうにも要領の悪いインタビュアーだったせいで、言葉を選びながら話すのはひどく気疲れするものだった。
気難しい相手だと思われたかもしれないが、それはそれで構わない。
疲れている相手を気遣おうともしないようなインタビュアーでは。
馴染んでいるウォーターベッドの寝心地はとてもよくてこのまま寝てしまいたかったが、バスローブ姿でこのまま寝てしまっては風邪を引く。
いくらオフシーズンだからと言って、まったく仕事がないわけではないのだから、体調を崩すわけにはいかなかった。
起き上がると、バスローブを脱ぎベッドカバーをはいでシーツの中に入った。
僕はこのスタイルでいつも寝ているが、だからと言ってベッドに入るまでの時間、裸のまま部屋の中でくつろいでいるのが一番心地よいと思っているわけではない。
どうやら悠季は僕が家の中で裸でいても平気なのだと思い込んでいる。
全裸でいるのが好きなのだと思っているふしがある。確かに何にも束縛されないことは気持ちいいのだが。
しかし、本当の理由はそうではないのだ。
僕は悠季がいる前で全裸を見せる。
必ずとは限らないが、悠季が僕の全裸を見たことで欲情する機会が多い。
恥ずかしがりやの悠季のこと。
口でそう言う事はないし、自分から態度であらわして僕を誘ってくることはめったにないが、ほんのりと耳や目元が赤くなったり、無意識に唇をなめていたりする。
僕の裸をずっと目で追っていたり、逆に不自然に目を逸らしていたりもする。
そんなとき、僕が彼を引き寄せて柔らかで甘い唇を盗み、パジャマの隙間から肌を触れば、確実に熱く蕩けていくのが分かるのだ。
そうなったらあとはしめたもの。彼を押し倒して、あちこちキスを降らして彼の甘いうめき声を聞いて、彼の熱く実った果実を手に入れればいい。
「ああ、まずい・・・・・!」
つい悠季のあの時の、切なく甘いうめきを思い出してしまった。
その後、僕がベッドの上で何をしていたかについては、
――――― ご想像にお任せする。