ぐっすりと眠っていたのにふと覚醒する時がある。
その夜も僕はぽっかりと目が覚めてしまった。
「あれ、えーと・・・・・?」
からだをちょっと起して見回して。
「・・・・・うっ」
からだにはまだ消し切っていない甘い余韻とともに、あちこちに鈍い痛みがはしる。
こういう痛みには覚えがあって、圭と羽目を外して抱きあったあとは、いつもこんなふうで。
「あ、そうだ。圭」
僕の隣りの定位置に見ることが出来たのは、いかにも気持よさそうな寝息をたてている圭の姿だった。
ああ、そうだ。
昨夜はようやく圭が無罪放免されてアメリカから帰って来たんだっけ。
玄関に入ってすぐ、光一郎さんに挨拶するのもそこそこに、僕たちは寝室へととび込んで、そのまま互いの存在を確かめ合い、無事だったことを喜びあったんだった。
それはもう二人ともタガが外れてしまって、こもっていた熱を吐き出して、絶頂を極めてはすぐにまた互いのからだを愛撫しあって、次へのプレリュードとして甘く高ぶっていくのを感じあい・・・・・。
もう腕もあがらず、腰もにぶく感覚が失せて失神するように眠りこんでしまったんだった。
けれど、こうやって目が覚めてしまった。
ああ、そうか。
本当に僕の元へと圭が帰って来てくれたのか、僕はもう一度確かめたくなったのか。
寝室のそばの窓は、圭とここに戻ってきたらきっとすぐにやってくることになるだろうと思って(願って?)きっちりとカーテンを閉めておいた。
誰にもじゃまされずに二人きりで愛の巣に籠るために。
それでもカーテンの隙間からはうすく朝焼けらしい光がこぼれてくる。
だから眼鏡の無い僕の頼りない視力でも、圭の寝姿が分かったんだ。
寝入った時間は覚えていないけど、それほど眠っていたとは思えない。一晩中僕たちは睦みあっていたのだから。
「・・・・・ん。悠季?」
少しかすれたようなバリトンが僕の名を呼ぶ。
「なんでもないよ」
僕はまたベッドに横になり、圭が差し出してくれた腕に抱かれた。
ああ、圭の匂い。
ずっと恋しくて、たまらなかった。
圭の肩に顔をすりよせて、目を閉じた。
「どうかしましたか?」
「ちゃんと帰ってきてくれたんだなぁって、ね」
「・・・・・はい」
僕の想いを圭はうけ止めてくれたのだろう。
やさしい手が僕の背中をなでる。
目が覚めてしまったときの、わずかに残る不安を消し去ってくれるかのように。
少々昨夜の余韻が、甘いうずきまで呼んでしまうのはしかたないけど。
圭がサムソンにどんなことをして無罪を勝ち取ったのかとか、むこうでの詳しい事情とか、あれこれ聞いてみたいとは思うけど、
でも、僕は圭に聞く事はないだろう。
それでいいのだと、僕は思っている。
圭は、僕には音楽に専念していて欲しいと望んでいるのだから。
陰謀に長けている自分には気がつかないでいて欲しいと願っているのだから。
僕は小さくため息をつき、それから大きく息を吸った。圭のにおいがする。なじんでいて、大好きなにおいが。
もうからだはくたくたで、一滴も残っていないはずなのに、まるで条件反射のように火がついてしまいそうだ。
圭も同じに違いない。
でも明日は圭にとって忙しい日になる。
事件の報告と騒がせてしまったお詫びと信じていて下さったお礼をしなくちゃいけないところがたくさんあるはずなのだから。
だから僕は圭を起こしたりしない。
消え残っている余韻を無視することにして目を閉じた。
圭の差し出してくれるぬくもりに身を委ねると、またため息が出た。今度は安堵のため息だ。
とろとろと甘い眠気が瞼を重くする。
僕はぐっすりと、心地よい眠りの底へと落ちていった。
本編ラストでは、あまり甘いHシーンが少なかったように思いますので、こちらで代用(笑)
あまり役に立っていないかもしれませんが。σ(^◇^;)
夜想曲