秋の味覚と桐箱の中身の相関関係について
ソレと出逢ってしまったのは、たまたま圭と立ち寄ったデパ地下だった。
「じゃ、今夜はコロッケでも買ってかえろうか」
「いいですね」
「あ、ここの店のコロッケがおいしいって話なんだ。えーと…君はなにがいい?…って、圭?どこ見てるの」
圭はなにやら、少し先にある青果売り場のほうを見ているようだ。夕方でお勤め帰りのOLさんやら奥さん達でちょっとした人だかりになっている。
「なんだろ」
「さて…どうやらなにか珍しいものでもあるようですが…」
とにかく今夜のおかずを手にして、ちょっとのぞいてみることにした。
…それが、そもそもの間違いだったんだけどさ…。
「わー…おっきいわねぇ」
「すごーい。こんなのはじめて見るー」
ソレを目にした皆様の口々の感想が、端的にその存在を示していた。
秋の味覚の王様、松茸。少し小振りの(しかし、なんだ!このお値段は!?ってプライスカードがついている)それらのよりも一段と高い所に鎮座ましましていたのは確かに
「でかい…」
としか言い様のない、それだった。
「へー、30cmもあるんだってさ。立派だねぇ」
感心しきりの僕の隣で、圭はなにやらむすっとしている。
「どうしたの?」
見やった僕をちらり、と見下ろして
「…べつに。そろそろ帰りましょうか」
んー…なんだか、拗ねてるような風でもあるけど。なにか気に障ることでもあったかなぁ…?
その夜はとくにこれといって問題はなくって。けど、それから一週間程して事は起こった。
圭は先日から地方公演で出かけていたけれど、明日は富士見に帰ってくる、っていう日に電話があって。
「悠季?こちらでいいものを見つけたので送っておきましたから。今日あたり着くと思います」
「ありがとう。なんだい?」
「…それは、着いてからのお楽しみ、ということで。では」
なんだろう。妙に楽しそうな口ぶりだったけど。
ともかくこちらも出勤して一日のレッスンをなんとかこなし、帰宅してしばらくしたら玄関ベルがなった。あ、例の荷物かな?
というわけで、僕は今クール宅急便の包みを前にしているわけなんだけど、包装を解いているうちになんだか妙なデジャヴに襲われた。
最後にあらわれた桐の箱を見て
「…どこかで見たような箱だ…」
そう、以前ロスマッティ先生の所に届いたアレと同じような桐の箱!
まさか、またアレを送ってきたんじゃないだろうな!?…でも荷札には
『なまもの』とあるし…。
恐る恐る蓋を取ると…そこには!
あの時の圭のアレに負けず劣らずの
でかい松茸が一本、どーん!と納まっていた。
気を取り直してよく見るとメモが一枚。
『やはり、僕のが太さでは勝っています』
メモを手にした僕が、思いっきり脱力したことはいうまでもない。
注意;松茸は生食いできません。