悠季の怖いこと








圭は、僕が淡白で修道僧のごとく禁欲的なところがあると言う。


僕としては成人男子としてはごく一般的な性欲も持っているつもりだし、欲求もある。それを誰と比較するのかってことになるけど、猥談なんて学生時代にもしたことがない僕としては、たぶん他人と比べて平均くらいだろうと思っているだけなんだけど。

ただ、バイオリンに集中してしまえば、何日でも性欲のことなんて意識することはなくなるしそのまま過ごしてしまえるというのは、普通ではないのかもしれないと思うことはあるけどね。

圭はベッドの中でのメイクラブ以外にも肩を抱き合ったり肌を触れ合わせたりといった緊密なスキンシップを好むけど、そのまま許容していたら人前でも平気でするようになってしまう気がして、気が引けるんだ。圭としてはそれが不満らしくて、寝物語にそんなことを冗談交じりで言ってきた。前世は謹厳な禅僧ではなかったのか、などと。

最近は開き直ってしまえるようになっているけど、それでも知り合いにむかって堂々と圭との仲を惚気るなんてことはは出来ないし、たとえ白い目で見られることがなかったとしても人前で堂々とハグや手をつなぐ行為をする度胸がない小心者なんだ。

「そういえばきみの祖先は会津から今の地に開拓民として入ってこられたのでしたね。もしかしたらその気風が残っているのでしょうか」

どういうことなのかと思っていたら、会津の武士たちにはしてはならないことという箇条書きがいくつかあって、その中に外で異性と話したりしてはいけないということもあるらしい。

圭に聞くまでそんなことは知らなかったから、僕の田舎で言い継がれているなんてことはない。でも人前であからさまに語ることではないということは昔かたぎのおばあちゃんになんとなく刷り込まれていたのかもしれないとは思ったけど。

でも、それが圭との関係に響いていることは無いと思うし、圭が内心不安に感じているような同性愛に対する否定的な倫理観が縛っているというわけではないとも思う。ただオープンに恋愛事情をさらけ出すことがしにくいんだ。

圭はオン・オフのスイッチの切り替えがはっきりしていて、音楽家・指揮者の桐ノ院圭と、僕を愛してくれる桐ノ院圭という人格を瞬時に切り替えることができるけど、僕はそんなに器用じゃない。

一度バイオリンに没頭してしまえばなかなか元通りの守村悠季に戻ることができなくて、バイオリンを仕舞い、楽譜を片付けて、徐々に圭を愛する守村悠季に戻っていくんだ。

圭を欲しくてたまらなくなることもあるけれど、突発的な欲求はあとで戸惑うこともある。最中の自分の姿を客観的に思い浮かべるせいで、気恥ずかしくなってしまうんだ。それって、オープンな性行為に慣れていないからなんだと思う。

それに加えて圭の望むフルコースというのが、とても濃厚で、その・・・・・つまりしつこいんだ。

それが僕もイイんだから文句を言うつもりなどまったくないけれど、圭に翻弄された挙句に、日常的な僕にクールダウンしたとたんに『うわぁ!』と叫んで転がりまわりたいようなことをあからさまに口にしていたことを思い出してしまったりするんだよなぁ。






二人でベッドに入って、甘くて軽いキスから深くて官能的なキスをしながら圭の手が僕のからだの上を様々に動き出す。

さすがにフィンガーアクションを得意とする指揮者というべきか、指でなぞられ、指の関節でこすられ、手の甲や指の腹で触れていく。増して手のひらでやんわりと愛撫されくちびるや舌で舐められしゃぶられていけば、僕のからだはどこだって感じすぎるくらいに感じて、もう何も考えられないイキモノになってしまう。

首筋や肩、背中にひざやふくらはぎ。腕だって指だって念入りな愛撫は忘れてはいない。
その上圭は思ってもいないような場所まで愛撫をほどこしてくるものだから、その意外さに反応は過剰すぎるくらいになってしまう。

圭が肌に触れていくと、快感は戦慄をともなって背筋を駆け上がっていき、さあっと鳥肌が立っていく。ざわざわと体の奥に熱がたまりだすと、吐息は熱をもってあえぎにかわる。そして、いつしか何も考えられなくなってしまう。

わきの下を口と指とで愛撫されたりとか、足の指を一本ずつなめしゃぶられたりとか。丁寧にアナルを舐められたりとか、それから・・・・・・ああ、もう!思い出したら恥ずかしいだけじゃないか!

圭と恋人同士になってすぐの頃には、声を出すことが恥ずかしくてなんとか抑えようとしていたけれど、今はそんなことなんて『いったい誰のことだ?』なんて言いたいくらいによがり声を出している・・・・・んだよな。

終わったあとに喉がかれていたりするから、大きな声を出していたんだろうって思うけど、記憶にはほとんどないだよねェ。それくらい無我夢中になっちゃうんだ。

彼の望むままにからだを開き、望むままに屈曲し、ただ官能を追いかけていく。

そして、彼が望むままに僕がしたいことを口にするんだ。ここがイイとか、○○を舐めて・・・・・とか。

深くて熱くて奥まで入ってきてる。すごくイイよなんて言葉も口にしてるよな。

そして、そこをもっととか、中をかきまわしてとか・・・・・叫んじゃっていたりするんだよな。



うわぁ・・・・・!



ねえ、圭。恋人同士ってみんなこんなことをしているのかな?僕にとって圭は唯一の恋人だから、本人たちが同意しているならそれでいいのかもしれないと思うし、誰かにどうなのかなんて聞くつもりはまったくないけど、かなりハードだよね?

自分のことを淫乱なのだと言っていたことがあるし、留学時代は毎晩のように恋人を取り替えて夜を過ごしているような、かなり荒淫な生活をしていたらしい。

そんな彼が僕一人で満足できるんだろうかという思いが、時たま僕の頭をよぎる。

ああ、だからなのかな?

僕が禁欲的に思われてしまうようなことがあるのは。

これは昔の名残。『僕なんて』というネガティブな想いの残滓。

地味で不器用な僕。圭がゆっくりと僕が押し固めていた『僕なんか』という劣等感や凝り固まったネガティブな思考は自信と積極性に成り代わっているけれど、おずおずとした昔の僕が時折顔を出す。

彼との充実した愛情あふれる生活の中に、ふとした瞬間に感じるかすかな苦味。

いや、僕が彼の愛情に甘えてこれが当たり前のことだと思い込むような怠慢をしないようにために、僕の中の何かが警告しているんだと思う。それが警告とだけに済ませるか、彼との関係を悪くするようなことにしてしまうのか。
それは僕次第なのだろうけれど。

圭、臆病な僕は何かにつけてきみを心配させてわずらわせてしまうけれど、恥ずかしいけれど君とのセックスを喜んでいるのは確かなんだから、大目に見て欲しい。



ただね。これも言っておくよ。きみほどの体力は僕には無いんだ。



つまりね。フルコースを毎晩堪能するほどには、僕のミルクタンクは大きくは無い。



それだけなんだからね。









だから


ねぇ、圭。


お願いだから





もう・・・・・寝かせて。














2016.8/9 up





遅くなりましたが、新刊を読んでちょっと考えたことを
書いてみました。
圭の誕生日用に出すにしては、ちょっと彼が不平を述べそうな内容ですね(笑)