僕たちが所属している桐オケは、1月は少し休みが多くて、2月3月はあちこち飛び回って演奏会を行っている。
で、2月の11日って、世間的には祝日で休日だけどね。
その日は僕の誕生日を祝う日だから休日!
なんてことは僕らにはなくて。
今日も都内のコンサートホールでの公演が予定されているけど、祝日なものだから、一日2回公演なんて荒業になっている。
僕の誕生日にはいつものように、きっと圭は何か考えているんだろうけど、それはこの公演が終わってから、プライベートの時間になってからということで、今は演奏に集中だ。
マチネーの公演は午後1時からで、夜の公演は6時から。
団員さんたちはたいてい早めに昼ご飯を済ませてくるか、それとも公演が終わってから軽く食事をしにいく。
中にはジョギングウェアに着替えて、周辺をジョギングに行ってからだをほぐしてくるなんて人もいる。もっともほとんどの人は、公演の合間の時間はどこかに出かけるほどはないから、控室でのんびりと時間をつぶしていることが多い。
それで、僕はどうしているかというと、実は仕事だ。
音楽雑誌のインタビューが入っていて、同じビルの中に部屋をとって、そこで今後のコンサートの予定とか、今手掛けている楽曲のことなんかをしゃべったりした。
ほっと息をついたところで、宅島くんがあれこれ相談してきて、気が付いた時にはもう夜の回のリハーサルの時間になっていた。
急いで僕が舞台に行くと、もうみんなが揃っていて、指揮台には圭の姿があった。
「遅くなってすみません」
急いでコンマス席に座ると、隣に座っている芳野くんが音合わせを済ませているとおしえてくれた。
本番の時にはもちろん僕が団員さんたちの調子を見る意味もあってきちんと僕が音合わせをするけど、今はリハーサルだから音感のいい芳野くんに任せたりするけど、実は彼の方が音程がずっと正確だったりするんだよね。
「コンマス、アンコール曲が変更になるそうですよ」
そう言って薄い楽譜が渡された。
「守村さん、先にアンコール曲を合わせます」
圭が声をかけてきた。
「わかりました」
さて、どんな曲だろう?
楽譜の最初のページ、タイトルのところには『HBTMC』
と書かれていた。あれ?これってどういう意味かな。それとも新曲?圭からはそんなこと聞いてないけど。
楽譜を読んでいって、ページをめくろうとしたところで声がかかった。
「始めます」
あわててバイオリンの音を確認し、圭の方を向いた。どうやら初見で弾かなきゃならないみたいだ。
曲の前奏部分は軽やかだ。他の人の演奏を聴きながら弾き進めていって、ページをめくったところで手が止まった。
「え?」
曲の続きが書かれているはずなのに、まったくの白紙だったんだ。
でも、他の人たちは平気な顔でそのまま弾き続けている。どうやら渡された楽譜のコピーミスかな?と思っていたところで、聞こえてきたメロディーと歌に思わず笑いだしてしまっていた。
happy Birthday to you
happy Birthday to you
happy Birthday Morimura Con-mas
happy Birthday to you
パーカッションなどの手が空いている人たちが歌ってくれてたんだ。
「お誕生日おめでとう!守村コンマス!!」
曲の最後には盛大な拍手とお祝いの言葉が。
パンと鳴らしたクラッカーのおまけつきで。
指揮台では圭も拍手してくれていた。
「あ、ありがとうございます!」
僕は突然のみんなの祝福に感激でいっぱいになった。
「もう、今日はびっくりしたよ」
僕は先ほどのサプライズを思い出して、あの時のうれしさをかみしめていた。
ここは僕たちの家、ではなくて、公演後に圭が車を走らせて連れてきてくれたホテルだ。
ディナーをとったあと、部屋に入るとユリの花束を贈ってくれて、僕はお礼に圭にキスして、圭はお返しにもっと熱烈なキスを返してくれて・・・・・。
そしてそのままベッドイン。抱き合ってほてったからだを休めながらのピロートークというわけだ。
「僕としては、二人だけのときにきみに感激してもらえるようにしたかったのですが」
ベッドの隣で肩肘を枕にしている圭は、少しすねたように言った。
「でもあの曲、きみが編曲したんじゃないの?」
「ええ、先日春山くんたちから相談を受けまして」
マチネーと夜公演との間ならちょっと仕掛けを仕込んでサプライズが出来るだろうからと持ちかけられたそうだ。
「まさか宅島くんも協力してたなんて思わなかったしね」
そう、僕がインタビューに答えている間に、曲の練習をして、僕が舞台に戻ってくるのを遅くするための時間稼ぎを宅島くんがやって、楽譜も最初のページしか書かれていないものを渡されたのも僕が気がつかないようにするためだったんだ。
ちなみに、タイトルのアルファベットは、happy Birthday to Morimura Con-mas の頭文字だったそうな。
「僕としては【2月11日】以来の曲のプレゼントですから、もっと時間をかけて作りたかったのですが」
ひどく残念そうに言ったけど、このところの圭の忙しさを知っている僕としては、無理だったんじゃないかと思う。言わないけどね。
むしろ合間に編曲といっても、オーケストラ曲としてきちんと編曲してあったし、ハッピーバースデーはとてもいい曲だったと思う。
「ありがとう、うれしかったよ」
起き上がって、圭に顔を寄せてちゅっとキスをする。すると突然くるりと視線が動いて、からだが仰向けになっていた。
「ぜひその感謝は続きのボディトークで」
「さっきもさんざんしたじゃ・・・・・あん!」
圭の手がさんざんにほぐされてまだ敏感になっているソコに触れてきて、ずくりと甘くうずいてきた。
「夜はまだ長いですし」
「明日は休日だし?」
僕の言葉に圭がにっこりと笑った。
あ、しまった。墓穴を掘ったかな。
「ええ、そうですね。このまま連泊しても構いませんし」
「け、圭っ!」
僕は圭の熱に飲み込まれて、そのまま「もう許して、寝かせて」を何回もいうはめになったんだった。
守村悠季さん、お誕生日おめでとうございます! 久々のお誕生日話。 突発で書き上げたので、出来はイマイチかも? |
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2020.02/12 up