元旦の朝に








レースのカーテンから入ってくる日の光がまぶしい。

今日も良い天気だということをおしえてくれている。
チュンチュンと囀っているすずめたちの啼き声もにぎやかだけど・・・・・もう朝じゃないよね。

「ふわぁぁ、よく寝たぁ」

隣りで寝ている圭を起こさないように小さな声でつぶやくと、ベッドに入ったままでぎゅうっと背伸びをする。

「んん〜〜〜っ」

ビリビリとするくらいに力をこめていくと、手指の先や足先にまでに血液が巡っていって、動き出す準備が整ったという気分になる。





僕たち音楽家は師走の時期になるとあちこちのコンサートや音楽祭にお呼びがかかる。

最近の僕たちの所属している桐ノ院圭オーケストラは、次第に実力がついてきていて、音楽の叙情性の追及や作曲者への解釈の深さなどが世間に知られるようになってくるにつれて、ありがたいことにあちこちから声がかけられてきていて、各地からひっぱりだこになってきた。
おかげでたくさんの公演が出来るようになって、日本中を動き回ることになってきている。

圭と宅島くんが相談してそれなりに仕事を選んで受けているのだけれど、それでも練習、リハーサル、本番と息がつけないほどに年末に掛けてスケジュールがぎっしりと埋まってしまっていた。

その上に僕自身の演奏会のスケジュールが入っているから、朝の圭との会話はその日のスケジュールの打ち合わせがほとんどで、ゆったりとした個人的な会話は少なくなってきている。

忙しいって言う字は心を亡くすって書くけれど、本当に余裕が無いっていうのはからだだけじゃなくて心にも負担が大きい。とは言っても経費がかかるオーケストラとしては、それなりに仕方ないことと割り切ってしまうしかないのかもしれない。仕事があるのはありがたいことなんだと思うべきなのかも。

そんな殺人的なスケジュールも年が明けるとぱたりと止まって一息つけるようになるのが通例だ。日本ではニューイヤーコンサートはあまり習慣になっていないから。




このところ恒例になっている大晦日の夜に行われるジルベスターコンサートを今年は神奈川でやることになって、そのあとは軽く忘年会というか慰労会をやってから夜明けに二人でタクシーで自宅に戻ってきた。

それまでの連日の疲れもあったせいですっかり疲労困憊してしまい、シャワーを浴びるとそのまま二人でベッドに潜り込んで爆睡することになってしまった。

やれやれようやくこれで一息がつける。
もっとも僕の方は三日には都内だけど打ち合わせの予定が入っているし、圭の方も事務局に顔を出す用事があるそうだ。

くるりと顔を向けて隣りを見てみれば圭はまだ眠っている。目の下にはうっすらと隈もできているようで疲れているのがよくわかる。
無理も無い。指揮者としてだけではなく、オーケストラのオーナーとしての立場もあるから、他の誰よりも気力も神経も疲れているはずだから。

うん、もう少し寝かせてあげるべきなんだろうな。

時間は?と、枕元にある時計を引き寄せてみると・・・・・昼になっているのは、まあ当然か。

シャワーを浴びてから、朝食昼食兼の食事でも作ろうか。

忙しくて正月の準備どころじゃなかったから、お餅もおせち料理も用意してあるわけじゃないから、いつもと同じようなメニューになっちゃうだろうけど。

それともマメな圭のことだから、何か買い込んであったかな?最近はネットで注文して届けてもらえるらしいから。

便利ですからきみも使ってみませんか?と言われたけど、僕のようなアナログ人間は自分の目で見て品物を選びたいからやろうとは思わないな。

思いかえしてみるとオーケストラが出来てからは各地でジルベスターコンサートがあるから、毎年のように演奏に出かけていて、元日に自宅にいることが珍しくなっている。
昨年は札幌だったし、一昨年は北九州だったっけ。当然、家には帰れないから、ホテルで元日を迎えることになる。

オーケストラと行動を共にしているとき、僕たちは恋人同士という顔は隠してコンダクターとコンサートマスターとしての表の顔を出しているから、元日の朝も当然オーケストラの仲間と一緒だ。

泊っているホテルで形ばかり正月らしい朝食を摂る事になっているから、のんびりまったりなんてできやしない。

まともな正月という言い方もおかしいけど、世間一般的なのんびりとした正月とはあまり縁がなくなっているようだ。

今年は久しぶりに二人きりで過ごすことが出来たのだから、以前のように僕がお雑煮作って仲良く食べて、二人して近所の神社にでもお参りにでも行ってみようか。

さて。


からだを起こしたところでくるりとからだが引き戻されて、ぱふんと元のベッドへと沈没した。

「どこへ行こうというのですか?」

まだどこか眠そうなバリトンが僕の上から降ってくる。

「・・・・・あけましておめ」

言いかけた言葉は口でふさがれた。そのまま圭の舌が僕の口の中を蹂躙していって挨拶どころじゃなくなってしまった。

「正月を寿ぐ言葉はきちんと衣を整えてからのものですよ。その言葉はのちほど」

って言いながら、せっせと手が動き出す。

「疲れているみたいだからもう少し寝かせてあげようと思っていたのに」

「疲れはきみを抱きしめれば吹き飛んでいきます」

そりゃあ圭と愛し合うのは嬉しいけど、圭は昨日の慰労会ではほとんど料理に口をつけていなかったんじゃなかったかな。団員さんたちや関係者の方たちから次々とお酌されて、僕が取り分けてあげた料理にもほとんど箸をつけられなかったんだ。だから健康第一。まずは栄養を摂ったほうがいいんじゃないだろうか。

「年始の挨拶を言いたいから、食事にしない?」

「きみを頂くほうが先です」

って、流されたら年始の挨拶なんてどこかに行ってしまいそうだけど。

「まだナイチンゲールが啼いています。朝はまだ遠いですよ」

あれはナイチンゲールじゃなくて、雀なんだけど。

なんて内心で突っ込みを入れてみたけどね。

しゃべっていても圭の手は止まらず僕のパジャマのボタンをせっせとはずしていく。燦燦と明るい日差しが差しているベッドの上で。

「ああ・・・・・ん!」

圭の貪欲な手がボクを握りこんできて、僕の息があがってしまう。

「きみが不足しているんです。飢え死にする前に食べさせてください」

「あっ・・・・・あっ!」

圭にすっぽりとくわえられて、あっという間に駆け上がっていってしまう!

「・・・・・早すぎるって」

なんだかんだと言っていても、僕も忙しさのせいで圭に餓えていたのがバレバレだよ。おかげでたいして愛撫をされなくてもあっという間にイっちゃうんだ。

「こちらも寂しがっていたのでしょう?」

なんて言いながら、圭の指が僕の中に入ってくる。

「あ・・・・・ん・・・・・」

「つらくないですか?」

「・・・・・平気」

しばらく圭を受け入れてなかったソコは少し抵抗してみせたけど、ほぐされていくとすぐに柔らかくなって圭を受け入れる準備を整えた。

「いきます」

足を広げるしぐさで同意すると、すぐにぐっと熱くて大きな圭のソレが入ってくる。

ああ、イイ!奥まで入ってくるその刺激だけでまたイってしまいそうだ。

「まだですよ」

「ああ!じらさないで!」

でも圭はじっくりとするつもりらしくて、僕の懇願を聞き入れずにかき回したり深く突き入れて揺らしたりしている。

圭のからだの都合の方が僕よりも切実だと思うのに、なんでこんなにじらすんだ。

「たっぷりと付き合っていただこうと思いまして、きみが傷つかないようにしているのですよ。ゆっくり楽しみましょう」

「気を使わなくても大丈夫だから。ねえ!も、もう早く、圭っ」

そんなことをしなくていい。僕はきみがほしいんだ。

僕は腕をさしのべ、圭を引き寄せてキスをする。そのせいで角度が変わり、腹筋が動いてきゅっと圭を締め付けていた。

ああ、イイ。

圭はうっとうめくと、我慢できなくなった様子で動き始めた。

「僕を煽って・・・・・!知りませんよ」

望むところだ。僕だって圭を堪能する。

「あっ・・・・・!イくぅ・・・・・!」

「ええ・・・・・っ・・・・・!」

あっという間に空へと放り上げられていった。ああ、なんて至福のとき。




・・・・・とは言え。

圭と僕との体力の差を甘く見ていた。

僕は腰が抜けてぐったりとなってベッドから起き上がる体力なんてもう残っていなかった。まして食事の用意なんてまったく無理。

一方、すっかりエネルギーをチャージして上機嫌な圭は台所へと降りていって、正月料理の準備に取り掛かっている。
この体力の差というか・・・・・。圭のからだってどうなっているんだ?起きたときよりも更にパワーアップしているみたいなんだ。
目の下にあったはずの影もすっかり消えているし。

僕の方はすっかりギブアップして、そのまま二度寝することになってしまった。圭に精気を吸い取られたみたいじゃないか、なんて思いながら。




しばらくして揺り起こされて、ベッドまで料理を持って来てくれるというのを断って、なんとか起き上がってシャワーを浴びて着替え、よろよろと食卓にたどり着いた。

「あらためて、あけましておめでとうございます。って、もう元旦も朝の時間をずいぶん過ぎているけどね。とにかく、今年もいい年になるようによろしく。お互いにがんばろうね」

「あけましておめでとうございます。今年もきみにとって幸多いことを願っています」

いつの間にか注文してあったらしい大吟醸のしゃれた瓶と、小ぶりなお重に入って綺麗に並べられたおせち料理が食卓に並べられていた。黒豆や栗きんとんなどの定番のおせち料理の他に、煮鮑とか僕が名前を知らない凝った料理もあれこれと入っている。

ふうん、うまそう。

圭が一昨年買ってきて棚に置いてあった切子のグラスに大吟醸を入れてもらう。お酒はすっきりとした飲み口で、おせち料理にも合うみたいだ。名前は・・・・・えーと、『勝山【暁】遠心しぼり』?って聞いても知らないや。

「宮城の酒だそうです。おせち料理に合うと勧められて購入しましたが、確かにいいようですね」

僕はちびちび飲む程度だけど、圭は相変わらずの酒豪ぶりをしめしていて、あっという間に空いてしまいそうだ。

「それにしてもよく急におせち料理なんて用意できたね」

鰤かな?美味しそうな飴色に照り焼きされた魚をつつきながら圭にいう。

「久しぶりにきみと二人きりの正月を過ごすのですから、それなりに用意しませんと。
正月の三日からお互いにスケジュールが入っていて出かけなければならないのですから出来合いの重箱は量が多く、食べきれるものではありませんし、あれは彩りを考えてあるものが多くて、味には満足できないでしょう。
せっかくですから、食べきれるだけの分量をきみの好みのものをとりそろえて無理が利く料亭に作らせました」

「つまりこれって
特別注文オーダーメイドしたってわけ?」

「はい」

当然といった顔であっさりこたえてくれた。

そういわれると、一般庶民の僕にとっては箸が出しにくくなりそうだ。でも、食べないと圭の心遣いを無駄にしちゃうことになる。

「圭、僕はきみと二人きりの正月を迎えられるだけで嬉しいんだからね。あまり気を使わないでくれよ」

「きみとしてはおせち料理も手作りしたいのかもしれませんが、忙しいスケジュールの中、昔ながらの主婦のように煮物を作るというのは無理があります」

「まあ、そうだね。昔のように無職だったらいくらでも時間があったけど、今は時間があるならバイオリンに打ち込みたい」

「ですから、時間を買ったと思ってください」

圭の贅沢趣味も、考え方を変えれば合理的なのかも。

それに、特注の重箱とその中身にいくらかかったのかなんてことは怖くて聞きたくないし。

さて、酒はそろそろ切り上げて、新潟風のお雑煮に手をつけようかな。






成城には明日伺うことにして、のんびりと元日の午後を過ごしていたけど、思い立って夕方二人で神社に出かけることにした。台所の荒神様のお札を頂きにいこうということになったんだ。

昔二人で行った神社は、普段は宮司さんがいないらしいので、もう少し先の神社へとのんびり歩いていった。あたりは夕闇が降りてきていて空は茜色から綺麗な紫がかった空へとみるみるうちに変わってきている。きっと明日もいい天気なんだろうなァなんてと思う。

神社に近づくに連れてオレンジ色のどこか懐かしい照明があかあかと辺りを照らしていて、暖かそうな雰囲気だった。

神社だからなのか、明るいといってもたくさんの木々が周囲にあるから闇がそこここに残っていて影が深く、にぎやかさに誘われて人ではないものもあらわれてきそうな神秘的な気配がある。

境内に入っていくと、びっくりしたことに結構な数の人たちが参拝していて、とてもにぎやかだった。

「元日の日付が変わった頃は二年参りでたいそうな人ごみだそうですよ。その混雑を避けてやってくる人たちなのでしょうが、考えることは同じということなのでしょうね」

圭が言った。イッちゃんからの情報だそうだ。

お賽銭を上げて、お札を貰って、僕たちは来た道をゆっくり帰る。

あれっ?今本殿の裏に白くて長い服を着た女性が通り過ぎた気がしたけど、巫女さんなのかな?

不思議な人影に気をとられていると、圭が耳元に顔を寄せてきた。

「からだは大丈夫ですか?」

「ん?ああ、腰なら問題ないよ。気をつけてくれたんだろ?そういえばあれって姫はじめってことなんだよね」

姫はじめって、けっこうハードだったよな。

「姫はじめというのは、元日の夜に行うものなのですよ。ですから、今夜、ということになりますね」

にっこりと微笑んだ圭が、なにやら企んでいるような顔で薀蓄を述べる。

「ええ?そうなんだ」

「ですから、たっぷり堪能させていただきます」

なんだか言葉に熱が篭もってないかい?

「・・・・・お手柔らかに」









そうして、その夜。

「悠季、これが姫はじめです。堪能していただけましたか?」

圭のあぐらをかいた膝の上に抱きかかえられて、背後から深々と貫かれて、熱くて大きな圭を飲み込んで、僕は手も動かせなくなっていて、頭を圭の肩に預けて息も絶え絶えにあえぐことしかできない。

圭が身じろぐたびにアソコも刺激してくれて、声も出ずに悶絶してしまう。そのうえ圭の手があちこちを撫で回したり、きゅっと乳首をつまんだりしているし、右手はボクを握りとって愛撫していたりするものだから、意識さえ朦朧としてきた。

「も、もう・・・・・」

「もう、少しですか?それとも、もっと?」

「・・・・・勘弁して」

思わず降参してしまう僕だった。













圭が言っていたナイチンゲール云々は、シェークスピアのロミオとジュリエットからの有名な台詞のパクリです。

オーダーメイドのお重の値段は庶民のわたしにはわかりません。きっと、ものすごく高いだろうなぁ、くらいしか。

ちなみにお酒を飲めないので、ネットでおせち料理に合う日本酒と検索して、アンケートの中で値段の一番高い酒にしました。
これまた庶民にはめちゃ高いです。(笑)





2017.1/14UP