・・・・・とは限らない
――背中合わせのモノローグ 桐ノ院圭のボヤキ編――
僕が、彼のそばに恋の最大のライバルがいることに気がついたのは、彼と仲良く過ごせるようになってすぐのことだった。
サラマンドラのエマ。
彼がたまたま保護する事になった【藍昌】の希少生物。悠季が言うには、この個体はメスなのだという。
もっともなぜそう思ったのかは彼にもよく分からないらしい。不思議なことだ。
それにしても、いまいましいサラマンドラ。
僕が、人間ではないとはいえ、『女』を恋のライバルにしなければならなくなるとは思わなかった・・・!
彼女は、悠季があの事件のときに意識を失っている間は、僕と協力して悠季が回復するのを助けようとしていた。
その時は分からなかったのだが、悠季が起きると、今度はあからさまに僕を排除しようとしてきた。彼女にとって、僕は悠季を害した悪者で、彼から遠ざけなければならない最大の敵らしかった。
僕は悠季の何気ないしぐさやそばに寄ってきたときの彼のほのかなぬくもりに、時折欲情している自分に気がつくことがある。いや、彼と共にいる時は・・・始終かもしれない。もちろん、密かに僕の心の中だけに押し伏せているのだが。
しかし、エマはそれを機敏に察して、まるで僕を咎めるかのように低くうなってこちらを見ていることがある。この生き物には僕の心の中が読めるとでもいうのか。それとも僕の態度が悠季にはわからなくても、他の者にはあからさまにわかるとでもいうのだろうか?
エマは悠季に気軽に擦り寄り甘えてみせる。悠季もこの生き物が愛しくてならないらしく、彼女が甘えてくると喜んで相手をしている。そして彼女は、悠季の気がつかないところで、僕に優越感に満ちた視線を送ってくるのだ。
僕には決して出来ないことも、悠季の愛しさを分け与えてもらえない事も分かっているから!
物欲しげにしてみろ、うらやましいと言ってみろと、そそのかしているかのようなその態度!
悠季を彼の気に入りそうな場所へといっしょに連れて行こうとする時は、エマは声をあげて腹が空いただの、眠いだのと邪魔をする。話をしようとすると膝に座り込んで悠季に撫でてくれるよう甘え声を出してみせる。そうやって悠季と僕が二人きりになるのを妨げようとするのだ!
僕はポーカーフェイスの内に歯噛みしたい気分を隠してみせる。ライバルにいい気分を味わわせてたまるものか!
悠季のそばをかた時も離れようとしないエマだったが、それでも悠季がわずかに席を外している事もある。
そんなとき、僕とエマはお互いに相手が気に入らないことをあからさまにしてしまう。彼女は僕に威嚇してみせるし、僕もエマを睨みつける。だが悠季が戻ってくると、そんなことがあったとはおくびにも彼には気づかせないのだ。
子供っぽいとは自分でも重々分ってはいるのだが、エマ相手に熱くなってしまう自分がいる。なんということだ・・・!
『しかし、藍昌に着くまでの辛抱ですかね。あの星に着けば、エマは向こうの管理者に渡す事になるし、そうすればエマを失って寂しがっている悠季を慰める事が出来る、それをきっかけにもっと親密になることも可能だ!一石二鳥というわけです!』
僕が密かにほくそえみながら藍昌へ着くのを指折り数えて待っているのを、悠季もエマも知らないだろう。
藍昌に着いたら、さっさと用件を済ませて、悠季といっしょにプライベートタイムを取って、二人っきりで過ごす・・・。
僕は顔には出さなかったが、内心わくわくとしながら、向こうに到着してからのあれこれと楽しい計画を頭の中に思い浮かべていた。
――だが僕は、藍昌でエマと悠季と僕との関係がどうなっていくのか、
まったく分かっていなかったのだ。――
2009.7/18 up