プレゼントは 消えて無くなるものがいい。
例えば、花ならドライフラワーなんかにはならないもの。
ずっと持っていてもらいたい、なんていうのはこっちの都合だから。
百合とかがいいかも…うん、彼の音のイメージにはぴったりだな。
…しかし…花束というのは、流石に職場に持ち込むのには勇気がいりすぎる。
だから仕事の帰り道、フルーツ売り場でこれを見つけた時は
『あ、これだ』
まったくもってぴったりと来て、とても嬉しい気分になった。
自分の部屋に帰りついて、ほっとする。
待つ者を持たない幸福。
自分一人のお茶を入れて、自分好みの音楽をかけて。
でも、今夜はいつもと違う仕事がひとつ。
デパートの紙袋から、それのパックをとりだして。
たしか、小さな籐籠があったはず…。よかった。あった。
クッション用の綿と、ラッピング用の薄い和紙。
パックの中は、大粒の、つやつやした苺。
宝石みたいだな。真っ赤で。
お味の方は…と。ん、なかなか。
和紙と綿を敷いた籠に盛り付けて、最後に透明なセロファンで包み込んで。
うーん…リボンはどうしょうか…。
きっと彼は明日の夜、これをもう一人の彼と食べるのだろう。
もう一人の彼なら、きっとシャンパンぐらいはバースデイに準備しているに違いないから、ちょうどいい。
楽しい気分で二人が食べてくれると、嬉しいな。
今これをラッピングしている私が、とても楽しい気分でいるのと同じように。
さて明日、手渡すタイミングをどうしょう。ま、なんとかなるでしょう。
『お誕生日、おめでとうございます。守村先生』
山田主任の2月9日
美貌の果実 (苺)
2006.2/9 up