嵐の中で
「結婚記念日にと思いまして、とある場所を予約しました」
夏休みを控えたある日、圭は嬉しそうな顔で悠季に言った。
「また贅沢をしたんじゃないのかい?」
「君との記念日なのですから、構わないでしょう?」
「・・・・・なんだかいつもそのセリフで押し切られている気がするなぁ」
悠季が苦笑した。
「もう大学の用事も済んでいることだし、まあローマに行く予定とダブっていないのなら、ご一緒するよ」
圭が満足げにうなずいた。
「前々からぜひ君と行ってみたいと思って何とか予約を入れようと試みていたのですが、どうもなかなか取れなかったところなのですよ。今年はやっと取れました」
「君がそんなに苦労するところなんて・・・・・どんなところなのかちょっと怖い気がするよ」
圭がにっこりと笑ってみせた。
「行ってからのお楽しみ、というところですね」
そして、悠季がつれてこられたのは、南の方にある島をそっくりホテルリゾートとしている場所だった。群島全体がプライベートビーチの上、小さく点在している島をそれぞれ一つの部屋としてもてなしてくれるという、贅沢なものだった。
島のそれぞれに専門のシェフや執事が控えていて、客が快適に過ごせるようにと気を配ってくれる。その上、執事は24時間二交代で待機しており、客のどんな要望にも完璧に応えてくれるという。例え客が急に大勢の人数を世界中から呼び集めてパーティーを開こうと考えても、例え急に客が大型クルーザーをチャーターしてクルーズしたいと願っても、たちどころに整えてくれる・・・・・らしい。
――そして、掛かる料金もそれなりのもの。――
その説明を聞いた悠季は大いにため息をついたのだが、すでに予約してあるというのなら仕方がない。庶民的な金銭感覚はこの際眠ってもらうことにして、圭の望むままに過ごすことにしたのだった。
「うわぁ!」
圭がエスコートして入ったところは、南国らしい開放的な空間だった。天井の高く広いリビングには豪華な設備が整えられている。ウェルカムとして、南国の色とりどりの花々が部屋のあちこちに飾られていた。
そしてバイオリンを持参した悠季に、執事は奥のサロンならば湿度を心配しなくてもよいことを教えてくれた。サロンにはピアノもあり、その部屋は空調を整えてあって楽器に最適な環境に設定してあるのだという。
リビングルームからテラスへと出ると、綺麗に植えられた熱帯植物の先には白い砂浜とさんご礁の海が見えた。
「へぇ。出たらすぐに海になるのかと思ってたよ」
「ここは汐風がありますからね。そういう部屋もあるそうですが、君のバイオリンにはありがたくないでしょう。気に入っていただけましたか?」
「うん。ありがとう。すごく綺麗なところだね。」
圭は悠季の感謝の言葉に嬉しそうな笑顔で応えた。
執事が控えめに飲み物について尋ねてきたので二人はリビングへと戻った。執事がお勧めだという南国の果実のジュースを二人分頼むと、さっそくに涼しそうに水滴のついた大ぶりのグラスが運ばれてきた。そして、他の用事がないかを聞いてから、そのまま下がっていった。部屋に備えられているベルを押せば、たちどころにやってきてくれるそうだ。
「ここはなんだかエミリオ先生のサルデーニャの別荘を思い出すね。もしかして君、あの時のアパートのようにまた先生に対抗する気があったのかい?」
「まさか。確かにここも海辺ですが、あちらは地中海ですし、こちらは太平洋ですから気候はまったく違いますよ。それに、あの別荘は素晴らしかったですが、僕にとっては君と気兼ねなく過ごせるかという点については不満が残る場所でしたね」
「うん。まあ先生の別荘だからね。」
「ここならば君も人の目を気にせずに過ごせますよ。ここで出会うのはこのリゾートのスタッフだけですし、その彼らも僕たちが用事頼まない限り姿を見せないように頼んでありますから」
「人の目を気にしないって・・・・・君がそんなに気にするとは思わなかったけど」
悠季がからかった。
「僕ではなくて、君がですよ」
「僕が?」
「ええ。たとえば僕がこんなことをしたら、普段の君ならば絶対に拒否するでしょう?」
圭はするりと悠季の隣へと席を移動し、肩を抱いて唇をむさぼってきた。驚いた悠季がどしどしと背中をたたいて止めさせようとしたが、やがて背中をたたく手は止まり、ぎゅっと圭のシャツを握り締めて口づけの甘さに酔いしれた。
「だ、だめだって・・・・・」
やっと口づけから解放された悠季が潤んだ瞳で圭を睨んだ。ここはまだ明るい昼間で、窓も扉も開放された部屋の中なのだから。
「なぜです?言ったでしょう、この場所は僕と君と二人きりになれるところなのだと」
圭はにっこりと笑って見せた。
圭と悠季ははここで南国のリゾートを満喫して過ごしていたのだが、どうやら小規模ながらモンスーンがこのリゾートにやってくるらしいという情報が入ってきた。
圭はこの後数日間の計画をあれこれと立てていたらしく、平然としてはいてもどこか不満げな表情は隠せなかった。しかし、さすがの圭も天候には勝てない。
二人はやむを得ずホテルの中に缶詰状態になったのだが・・・・・それはそれで楽しい時間だった。部屋の中には様々な設備も整っているし、サロンではピアノが置いてあって二人の合奏も楽しめた。
「なんだか外はすごいことになってるみたいだね。嵐が近づいてくるらしいって言ってたけど、ここに直撃するみたいだ」
「ええ、ここは絶海の無人島でして、僕と君とは嵐の中に二人きりで取り残されているのですよ」
「嘘ばっかり」
悠季は圭の言葉に笑い出した。
テラスに臨むフランス窓に打ち付けてくる雨風は次第に勢いを増してくる。激しく聞こえてくる潮騒の音は不安を与えてくれるが、一方で人の心を騒がせる原初の興奮をもたらしてくれる。
「確かにここは島のホテルだし、嵐も近づいているみたいだけど、無人島じゃないよ」
「でも今この状態は、そう思わせるものがあるでしょう。僕たちは二人きりで身を寄せ合っている。そんなふうに想像してみればそう思えてくるでしょう?」
窓の外を眺める悠季の腰を抱いて、圭が耳元に囁いた
「うーん。まあ、そんな気分はするけど・・・・・」
圭の手が物問いたげに悠季のからだをあちこちと彷徨う。悠季は苦笑しながらもその行為をとがめなかった。
「ここが無人島だとすると、僕はロビンソン・クルーソーってわけなのかな?」
「ああいいですね。さしずめ僕はフライデーというわけだ」
「・・・・・それって、君の好きな召使ごっこかい?」
「いえ、このフライデーは野蛮人ですから、ご主人様を喰らい尽くすつもりなのですよ」
圭が目を細めて見せた笑顔に、悠季はぞくりと背中を走るものを感じた。
それは、暗い愉悦に満ちた、官能と恐れの入り混じった期待。
ふいに顔を背けた悠季の手を取ると、圭は丁重に口づけた。
寝室に連れてこられた悠季は、自分の前に座る男を見た。そこには悠季を所有物としてこれから蹂躙しようとしている野蛮人が、獰猛で満足げな微笑みを浮かべている。
寝室はベッドの天蓋から薄い麻の帳が下りて薄暗くされているが、圭の表情を隠すほどの暗さはない。激しくざわめく海の轟きはこの部屋の中にも入り込んで、人の心をかき回してくる。
圭は悠季の足をとって口付けた。
姫に対する騎士の忠誠。
いや違う。これは、これから喰らう生け贄に対する最後の別れの挨拶。
悠季の頭にはそんな言葉が浮かんで消えた。
自分はこれからすべて喰らわれてしまうのだ。そんな興奮が悠季の肌を更に敏感にさせる。
ねっとりと圭の舌が悠季の足を舐め始めた。まだ服も脱がされていない。一枚一枚脱がされていく間に全てを喰らい尽くされるのだろう・・・・・。
極上の麻のシャツのボタンが外されて、のど元にちりっとした痛みが走る。
「んっ・・・・・。ああ・・・・・!」
悠季はさして愛撫されていないのにもかかわらず、快感に飲み込まれそうなからだを持て余していた。圭が胸の飾りを口に含むと、しなやかに背をそらした。
「ああっ!も、もう・・・・・!」
圭の腕に爪を立てて、快感をやりすごす。
「感じていますね?今日は特に敏感だ」
「・・・・・この嵐のせいだよ・・・・・」
「だからこんなに濡れている・・・・・?」
圭の手がズボンの中にもぐりこんで、熱く脈打っている悠季の昂ぶりを優しく撫でた。圭の手に触られて鈴口は更にしずくを滴らせた。指で弄ると、嵐の音に混じって湿った音が悠季の耳にも届いた。
「ああ、いいですね。君がこんなに興奮しているのを自分の手で感じるのは、とても嬉しいですよ」
「・・・・・そんなこと・・・・・言うなって・・・・・」
すでに口からはあえぎ混じりの言葉しか出てこない。
「先に一度イキますか?もう我慢できない様子ですが?」
悠季はふるふると頭を振った。
「・・・・・嫌だ」
「仕方ないですね。少しだけ辛抱してください」
圭は悠季のズボンを剥ぎ取ると、腰の下に枕を入れて両足を肩に担ぎ上げた。そしてそのまま秘所に舌を差し入れた。
「ああ、ああっ、ああん、ああんっ!け、圭っ!も、もうっ・・・・・!」
悠季の昂ぶりは圭にさわられなくても熱く張り詰めていて、まもなく弾けそうだった。
「まだ、もう少し我慢して下さい」
圭の手がきつく悠季のそれを握り締めた。
「け、圭っ!嫌だ!そんなことしないでっ!」
悠季が悲鳴を上げた。
「一人ではイキたくないのでしょう?ここを慣らさないとこの後、君がつらい思いをするだけですよ」
「で、でも・・・・・っ!」
快感にけぶる瞳が圭の抑制を直撃し、撃破した。
「も、もう、どうなっても知りませんよ?!」
圭はズボンの前立てを開けると弾け出てきたソレを悠季の蕾に当てて、一気に押し込んだ。
「あ、あう・・・・・っ!」
急激な圧迫感に息が止まりそうな気分を味わいながらも、悠季は圭を受け入れた。
圭は凶暴なことを口にしていたが、悠季が苦しまないようにゆっくりと抜き差ししながら奥へ奥へと進んでいった。
「いきますよ」
「う、うん。きて」
圭はゆっくりと慣らしのために抜き差しを開始した。だが、悠季が焦れているのを知ると、一気に入り口近くまで抜き出し、そして、一気に奥まで突き入れた。そのまま何度も繰り返すと、悠季の背中が反り返って圭の胴を巻き占めている足がぎゅっと締まった。
圭を飲み込んでいるソコも痙攣を始めて、きゅうっと締め付けた。
「あ、ああっ!」
「イイですか?悠季、イイ?」
「・・・・・な、なんだかヘンになる。変になっちゃう・・・・・!」
「ええ、誰もいないここで愛し尽くしましょう!悠季、愛してますよ!」
悠季はもう言葉も出てこなかった。
虚空に投げ出されるような浮遊感を味わいながら、頭の中が真っ白になるような快感を迎えて、・・・・・イッた。
「今回の休暇は面白かったね。楽しい結婚記念日だったよ」
悠季が笑った。
「こんな記念日もいいものでしょう?きっと後々『あの時は・・・・・』と思い出すに違いないですから」
「それは確かにね」
悠季の苦笑が深くなった。
「だからといって、これ以上エスカレートさせないでくれよ。君のことだから今度は何をするつもりなのか戦々恐々としてしまうから」
「おや、僕は君を楽しませることを第一と考えているのですが」
「僕は根っからの庶民なんだからね。それを考慮してくれよ」
「ええ。十分考えておきます」
だが、圭の微笑はまた何かを企んでいるらしいもので・・・・・
悠季はまた密かにため息をついたのだった。
サイト開始を、桐ノ院圭氏にとって鬼畜な話で始めてしまった私。(笑)
有名な(?)呪いの発動を恐れまして、氏にワイロを進呈です。
これくらいして差し上げれば、呪いはないはず・・・・・。(;^_^A
ここに出て来るリゾートは、テレビで見た本当にある場所をモデルにしてあります。
1週間滞在するだけで、ン百万かかるって・・・・・。庶民には夢にも見られないっす。
(T^T)
桐ノ院氏ならステージを二度ほど勤めれば行けるかなぁ、と。
ちなみに、テレビで有名な某 K sisters は行ったことがあるそうです。・・・・・うらやましい〜!!