とんとんとん・・・・・
さらさらさらさら・・・・・
パラパラパラパラ・・・・・
ピチョン、ピチョン、ピチョン・・・・・
そしてときどき
ばたばたばたばた・・・・・
雨の日はにぎやかだ。
バイオリンにとって雨は大敵だけど、僕自身は雨は嫌いじゃない。
農家生まれの僕にとって、雨って言うのは秋の実りをもたらしてくれる、恵みの雨だから。
こうやって聞いていると、ブラームスも「雨の歌」を作曲したときも同じように感じたんじゃないかと思ってしまう。
ヨーロッパの人たちは、雨の音を雑音と同じように聞こえるらしくて、日本人のように音楽だと感じることはないんだそうだ。
でも、「雨の歌」を弾いていると、共感を覚えることがある。
きっとブラームスも雨が降るのを楽しんだのだろうな、と。
「悠季、どこですか?」
家の中から圭が僕を呼んでいる。
「ここだよ、圭」
「ああ、ここでしたか。探しましたよ」
圭が僕のいる二階のベランダにやってきた。
近づくにつれ、彼のコロンの香りが雨の中に溶けているのか、いつもよりも強く香ってくる。
「雨のせいで気温が下がっていますよ。寒くはないですか?」
「ううん、大丈夫だよ」
そう返事をしたけれど、心配性の恋人はクローゼットから持ち出してきたカーディガンを肩に掛けてくれた。
「ありがとう」
着せてもらって、ついでに抱きしめられた。
そのままの姿勢で、二人黙って雨の歌を聞く。
ここ、伊沢邸には数多くの植物が植えられている。その木々の葉に雨粒が落ちて、
いろいろな音のパーカッションで構成されているような歌が聞こえてくる。
芝生の上や花壇に落ちて、かすかに聞こえてくる雨音。
木々の葉に落ちる軽快な音。
時折、茂らせた枝から一挙に雨が降り注いで、にぎやかな音となる。
「いい音楽ですね」
圭も僕と同じように音楽として聞いていたらしい。
「うん、そうだね」
「でも、僕としてはこちらの音楽も素敵に聞こえますよ」
圭が示して見せたのは、僕の胸の辺り。
「君も聞こえますか?」
圭の腕に抱きこまれて、聞こえてくるのは圭の心臓の音。
とくとく・・・・・といつもよりも少し早めに聞こえてくる。
「からだが湿ってきましたよ。そろそろ中に入りましょうか?」
耳元に囁く声には、キスがついてきた。
ぞくりとからだの中に、音とは言えない音が高まる。
「・・・・・うん」
僕は圭のエスコートに身を委ねて、そのまま部屋へと入っていった。
2009.7 再up