Jou-Ya



                    ――浄夜あるいは情夜――










「うん、それじゃあ、まず・・・バスルームはこっちだよね。先にシャワーさせてもらうから!」

悠季はなんともあっさりとした態度で、自分のシャツのボタンを外しながらバスルームへと歩き出した。

僕はあわてて彼の後を追い、その細いからだを抱きしめる事に成功した。

「君の服を脱がせる楽しみを、僕から奪わないで下さいませんか?」

彼の耳もとへそんな言葉を吹き込むと、あっという間に彼の耳から襟足まで真っ赤に染まっていった。

そのなんともいえない肌の色・・・。耳元に軽いキスを落とすとびくりと反応してくれた。なんと彼はいい匂いがするのだろう・・・!

僕は斜交いにした腕を解いてそっと彼のシャツの中へと手を差し込んでいった。滑らかな肌は僕の手のひらに快感をしみこませていき、さらさらとして気持ちいい肌を探りたどっていくうちに他の場所とは違う部分を見つけ出した。

最初あまり目立たなかったそこは、僕が触っていくに従ってぷつんと主張しはじめ、摘み上げると彼の口から小さな喘ぎ声が零れ落ちた。

「・・・圭、いやだよ・・・」

彼の口から小さく抗議が上がる。しかしその声でさえ、僕にはそそられる色気がまといついている。

彼のシャツを肩からすべり落とし、白くて肌理の細かい肌が目の前に現れていくのを楽しんでいた。

なで肩のラインの美しい肩から翼の名残のようにみえる肩甲骨へ、背骨に沿って舌を這わせきつく吸い上げて赤く染まるあとを残した。そのたびに震えて反応する敏感な彼のからだ。

「やさしくしますから・・・いいですか?」

僕は彼に許しを願った。黙ったままおとなしくなった彼を抱き上げると、そのままベッドの上に横たえる。


こんな夜が来る事をどんなに待ち望んでいた事だろう!


まだ少し不安げな顔をしている悠季の手を取ると、圭は指の一本一本にキスし、いとおしむように唇で手のひらをたどり、手の甲に恭しくくちづけする。

悠季の手は、先ほどのあっけらかんとした態度と違って緊張のために冷たくこわばっていた。

誘いにもならないいような態度でシャワーを浴びに行こうとしていたのは、緊張からきた照れ隠しだったのだと、今ならよく分かる。

 ああ、君は過去にあった記憶に、おびえているのですね。大丈夫、やさしくします。君には快楽だけを味わってもらいたいと思っているのですから。

 悠季の上に覆いかぶさり、彼の唇にそっと感謝のくちづけを贈る。それから官能を呼び覚ます為の深いキスを・・・。

悠季のぎこちない舌は、最初おびえ逃げ惑い、そして僕が捕まえるとおとなしくなって深く絡められて、次第に熱く反応を返してくる。なんという感触の心地よさ!

僕は彼が息継ぎに苦労してあえいでいるのにようやく気がついて、しぶしぶ彼を解放した。

悠季の、女とは違う皓い胸が上下するのをまぶしいような思いで見つめていた。

そうっと畏敬の念をこめて手を這わせていくと、彼はどこかへ隠れたい風情で僕のすることに耐えている。

「こんな薄っぺらいからだを見て、どこが楽しいんだ」

彼はそんなふうに悪態をついてみせた。

とんでもない!君のからだはとても綺麗ですよ。

そうささやいてみるとこれ以上賞賛の言葉を与えられてはたまらないという表情で黙り込んでしまった。

僕は彼のズボンに手を掛け、磁気ファスナーをオフにして、前をはだけさせた。

悠季のそこは少しずつ反応を見せていたが、まだ十分に興奮しているとはいえない状態だった。

そっと下着の上から手をのせた。びくんと彼のからだが反応する。反応の良さに気を良くしながら、そっと包み込んで刺激してやった。

過去に体験のある彼なら、こんな頼りない刺激にはきっとじらすなと抗議してくるだろう。

ところが彼は何も言わずに僕の手の動きに身を委ねるばかり。僕は頭の隅にかすかな違和感を感じながら、愛撫を進めていった。

僕は布越しの刺激を続けながら、上半身へとさわり心地のよい肌を唇と舌とでたどっていった。

臍の周りからなで上げて、脇腹からほんのりと色づいた胸の飾りへ。ちろりとなめ上げると、悠季は息を吸い込んで身に走る衝撃をやり過ごそうとしていた。

しかし僕はそれ以上そこには触れないで、鎖骨の方へと移動して行った。華奢な彼のからだはくっきりとした鎖骨の影が悩ましい。僕は鎖骨のくぼみをゆっくりとなめ上げていった。

「・・・ああ・・・」

彼の口から艶かしい声がこぼれ始めている。ええ、感じていますね。

肩口から耳の方へとゆっくりと唇を這わせていくと、悠季の手がシーツをぎゅっと握りしめていた。

「ねえ悠季、イイですか?」

耳元にささやいたが、返答はなし。

彼のズボンと下着を脱がせてやった。薄く濃く赤いしるしをあちこちに残しながら。

彼は僕の愛撫に敏感に答え、からだをよじらせて快感を訴えてくる。そのからだのラインの艶かしいことといったら・・・!

僕も急いで服を脱ぎ捨てた。彼のからだを熱っぽい視線で捉えながら、飢えた獣が獲物を眺めるかのように。

そうして、どうやったら一番美味しく喰らい尽くす事ができるだろうかと考えながら。


今夜僕に用意された、最高のご馳走を!


BGMには悠季の妙なるあえぎ声までついてくるのだ!


「あ、待って、圭、何か音かけてくれないか?これじゃ僕の声が響いて恥ずかしいよ。嫌なんだ、なんだか浅ましいみたいで・・・」

 悠季が泣きそうな声で僕に訴えてきた。まるで初めての経験であるかのように。あえぎ声はお互い様で、互いのそんな声がさらに快感を煽るのを知らないのだろうか?

 僕はそれ以上の不満を口にする余裕を剥ぎ取るべく、彼へと愛撫を深めていった。

快感が増すにつれてぷつんと勃ちあがってきた胸の突起を指の腹でこすり、舌で舐めしゃぶってみせた。時折偶然のようにちくりと甘噛みすると、僕の髪の毛を掴んでぎゅっと引っ張ってきた。顔を上げて様子を伺うと胸には赤く色づいた飾りが二つ。

「ああ、綺麗に色づきましたね」

悠季は言葉も出ない様子で、いやいやと頭を振って見せた。

ちらり目線を下にやると、彼のソレはしっかりと頭をもたげて薔薇色に色づき、切なそうな涙を浮かべている。

そっと手を差し伸べて握りこんであげると、それだけで彼は背中を反らして快感を訴え、しなやかな足をすべり動かして快感に負けまいと必死になっている。


君のからだは本当に正直だ。


僕は場所を移動して、彼の足の間に身を入れて彼が足を閉じられないようにした。それからおもむろに彼の勃起に舌を這わせて先走りを舐めると、ゆっくりと口に含んでいった。

「い、イヤだ・・・いや・・・ああ・・・!」

 悠季はあわてて僕の頭を引き離そうと必死になった。しかし僕が与える快感が強くなるに従い、髪の毛を掴んでもっと、いうしぐさにかわっていった。

そうして羞恥と喜悦におののきながら上り詰めていき、さほど時間もかからずに悲鳴をあげながら解放の余韻に身をふるわせることになった。

ときおり身に走る痙攣の余波に身を任せたままでいる悠季を満足げに見ていた僕は、彼の足を更に割り広げると腰の下にクッションをあてがい、彼の後蕾に舌を触れさせた。

「嫌だ!だめだ!やめて、圭っ!そ、そんなとこ嫌だっ!」

必死で彼が抵抗を始めてくる。それも、かなりめちゃくちゃに。

「大丈夫、もっと気持ちよくされてあげますよ。それにここをじっくりほぐさないと、傷ついてしまいますからね」

「ひっ!嫌だ、嫌だ、いやぁ・・・・・・!」

悠季は快感を感じながらも、頑強に抵抗してくる。

僕が頭を上げて彼の顔を覗き込むとぽろぽろと涙を溢れさせていた。・・・昔、こういうことはされたことがなかったのだろうか?

本気で嫌がっている彼に無理やりなことは出来ない。

僕は諦めてベッドサイドからジェリーを取り出すと、後蕾にたっぷりと与えて、指を差し込んでいった。

とたんに彼のからだに緊張が走る。

「うっ・・・くっ・・・」 

彼のからだが硬くこわばって、僕の指を拒んでいる。

まずい。僕に強姦されたの時のことを思い出させてしまったために、拒否反応が出てしまったのだろうか?

僕は悠季の顔のあちこちに軽いキスを落としてなだめていった。

「大丈夫、落ち着いて・・・緊張を解いてからだをリラックスさせるんです」

「む、無理だよ・・・!」

ぎゅっと閉じられた目から、ぽろぽろと涙が溢れていく。

僕はまた不思議な違和感を感じていた。

ここまで僕がやっていた愛撫はさほどハードなものとは思えない。それなのに悠季はまるで初めての経験であるかのように過剰に反応を返している。

僕のすること全てを嫌がっているわけではない、むしろからだは喜んで応じているのに、少しでも意外なことをされるとおびえてからだが強張ってしまう。


――彼は以前【ハウス】では幼いながらも、何度も性行為をおこなっていたはずではなかったのか?――


だが彼に、『君は【ハウス】では、どのようなセックスをしていたのですか?』などと聞けるはずもない。彼を傷つけるような事を僕が質問できるはずがないではないか!

それに、経験の違いが分かるほど僕が多くの性体験を知っているということを、彼に知られるのもヤブヘビというものだ。

僕は悠季に初心者へのソフトな愛し方に切り替えた。もしそれで不満が出るようならば、悠季がそう言って教えてくれるだろう。

 ゆっくりと彼の中に指を探り入れ、彼が喜ぶ場所を探し出す。

そこを探っている間、彼は眉をひそめて僕のすることに耐えているようだった。初めてされる事に不安と緊張を感じながら、じっと我慢をして僕がしたいようにさせてくれている・・・そんな風情。

「ああっ・・・!・・・ひっ・・・く・・・あう・・・!」

ついにそこのポイントを探り出し、こすってやるときゅうっと締め付ける感触があった。ぐりぐりと弄ってあげると、

「あっ・・・あっ・・・!」

 彼の 切羽詰った声が響く。

またイってしまいそうなのだろう。だが僕の方もそろそろ限界が近い。指を引き抜くとソコは名残惜しそうに絡み付いてくる。悠季が切なげにため息をついた。

僕はゆっくりと体勢を整えて、悠季の足をかかえると艶かしくほころび始めているソコに僕をあてがい、ぐっと押し込んでいった。

「あっ・・・!いやだ!痛い!・・・痛いよ・・・圭!・・・も、もう、やめて・・・!」

 逃げようとする悠季の腰を抑えて、ゆっくりと抜き差ししながら奥へ奥へと入り込んでいく。必死で上へとずり上がって逃げようとする腰をさらに手前へと引き寄せた。

ぼろぼろと悠季の眼から涙が溢れている様を見ると哀れになるが、今ここで止めるわけにはいかない。

「落ち着いて、落ち着いて・・・。ゆっくりと深呼吸すれば楽になりますよ」

悠季は必死で息を吸おうと努力していた。そのけなげさに胸の奥が切なくなる。涙を吸い取ってあげながら、耳元にささやいてなだめていった。

僕は改めて確信する。

悠季には、過去に性体験がない。もしくはからだが覚えるほどの経験はない。

もし経験していたなら、たとえ記憶を忘れていてもからだの方は覚えているのではないか?少なくともその行為をされれば快感か苦痛かは覚えているはずだ。

いったいこれはどういうことなのだろうか?

悠季の肩が硬く強張っている。

見るとシーツを握り締めている彼の手は、指の関節が白くなってぶるぶると震えていた。

君の大事な手をそんなところで傷めてはいけない。

僕はそっとシーツから手を離させると僕の肩へと手を回させた。悠季は必死という感じで僕の背中にすがりついてきた。

詮索は後回しにしよう。

僕はそのまま悠季を抱きしめながら、右手を彼のモノに伸ばしてそっと刺激してあげた。

そこは最初怯えたように反応をしなかったが、僕が行う手技によって生き生きと反応し始めると、やがてからだが慣れてきたらしく、きつく緊張していた悠季の中も徐々に柔らかく極上の反応に変わっていった。


彼の中は熱くて・・・ああ、なんという・・・なんという・・・!


僕はゆっくりと動き始めた。

「だ、だめだよ!動いちゃ・・・!」

悠季が上ずった声でささやいてきた。しかしその声とは裏腹に悠季のからだは僕になじんで反応しているのを伝えてきてくれる。

「・・・ああ・・・!」

 艶かしいため息と共に、彼は快感の海へと身を投じていった。

次第に身のうちに駆け上ってくる快楽に溺れて、ためらいを捨てて僕の与える動きを貪欲に受け取ろうとしている!

僕も同じように我を忘れて、のめりこんでいきそうな自分を発見する。


歯止めが・・・利きそうにない!!


「もっとですか?悠季もっと?」

「・・・も、もっと・・・圭!・・・もっと・・・!ああっ・・・あああっ・・・!!」









 ――きっと、このまま止められないと思っていた。――







初めての恋。これほど執着して愛した人は彼以外にいない。しかしその人を明日になれば手放さなくてはならない。

分かっている。これは僕自身が決意したこと。この人を守る為に、そしてもう一度この人を抱きしめる為に、今は別れなくてはならない。

だが、理性とは裏腹に、感情はこの人と別れるのを拒否していた。だから平静さを失い、最悪の結末を迎える寸前までいったのだ。この人に救いの手を差し伸べてもらうまで・・・。

そして、今夜。いとしい人を抱くことができて、狂喜に震えながら彼を抱いて・・・!

きっと悠季が疲れ果てて気を失っても抱き続けているのではないか。あるいは息絶えるまで、いや死体となっても抱き続けているに違いないと、半ば確信していたのだ。

僕はこのまま狂ってしまうに違いないのだから・・・!

狂乱の時が過ぎ、ふと気がつけば悠季は過ぎた快感と疲労にぐったりとなって気を失っていた。

それを見て僕が始めたこととは、あわてふためきながらも彼をベッドで安らかに休ませようとあれこれ世話することだった。

あれほど狂気に満ちていた情欲は不思議なほどあっという間に鎮まっていて、今は穏やかな愛しさだけが僕の中に残っている。

バスルームで温かく湿らせた海綿を(古代の地球で使われていた物とは違うが、名前だけはそのままになっているものだ)ベッドに持ち込み、彼のからだを拭い始めた。

うつ伏せで眠っている悠季は、柔らかそうな髪がかぶさっていて、目の辺りはあまり見えない。疲労が濃いのか、まだ呼吸は浅く早い。
ゆっくり丁寧に背中から拭い始めた。

バイオリンを弾く為だけに特化されたような彼のからだは、必要なところには必要なだけの筋肉を具えていて、とても洗練された造形を形作っており、こうやって見ている僕の目を楽しませてくれる。

彼はなで肩だと嘆くが、白くて艶かしいラインを描く首筋。

くっきりと浮き上がった肩甲骨となだらかな曲線を描くしっかりした背筋。

そこに挟まれて見える背骨をたどり小振りな双丘へと視線と手が動く。

そこここに残る僕の所有印を数え上げた。

それは鮮やかな赤で、悠季の肌になまめかしく残っている。

悠季は生粋のアジア系人種の明白な特徴をそなえているが、その中でも北方の出身らしく、肌は皓く肌理細やかだ。

それもアーリア人種のただ白いという肌ではなく、肌の底深くに僅かに金色を潜ませているかのような神秘的な皓さだ。

体毛も淡い。

僕はまたその肌に口付けしたくなるのをこらえて、からだを拭う手をせっせと動かしていき、双丘から陰りを帯びたあわいへと拭っていった。

先ほどまで彼はそこに僕の昂ぶりを受け入れ、快感に身もだえながら情熱的に応えてくれていたのだ。

僕は我慢が出来ず、腰の付け根にそっと口付けた。

「ん・・・」

悠季がみじろいで姿勢を変えた。

なめらかな胸とそこに淡く色づいている胸の飾り、引き締まった腹と今は眠っている綺麗な彼のモノが良く見えるようになった。

そう、悠季のからだは一種中性的な魅力に満ちている。

女性とは違う弾力のあるしなやかな肌と、優美で華奢でありながら適度な筋肉のついたからだ。当人がその魅力にまったくと言っていいほど気がついていないのは本当に彼らしい事だ。

悠季、君はその髪の色から足の爪の形まで僕の好みそのものですよ。

そして、悠季の右の太腿に刻み込まれている刺青。

恒河沙で使用されている、サンスクリットやアラビア文字に由来する、流れるような文字のせいなのだろう。数字や記号の羅列のはずなのに、絡みついた蔦や蔓を思い起こさせるような模様と色は、なんとも抽象的で官能的な模様に見える。

悠季の中から生え出してきて、これから彼のからだ全体に絡み付いていこうとでもいうような・・・、そんな悩ましい妄想さえ掻き立ててくれる。

これを彫りこんだ者はどんな気持ちでこれを見ていたのだろうか。

ただ単に奴隷を解放する失効線を入れる、仕事として処理しただけなのだろうか。それとも彼の肌に似合ったものをと苦心したものだろうか?もし後者だとしたら、その者に賞賛とともに多大な嫉妬しなければならない!

悠季は当然の事ながらこの刺青を嫌がっていたようだが、僕は――悠季には口に出して言えなかったが――彼を艶かしく淫靡に見せている・・・思う。とても、魅力的だ!

悠季のからだを全て拭って清めてあげたが、最後まで彼は気がつかなかった。当然の事かもしれない。おそらく初めてであろう体験で、これほどのハードセックスをさせてしまったのだとすれば。

僕は使い終わった海綿を始末すると、彼の隣へ潜り込み身を寄り添わせた。

このまま一晩中彼を眺めていたいところだが、明日の朝(ああ、もう今日になっている!起きる時間まであと数時間もない・・・!)になれば、船長としての僕の責任が待っている。

彼をまたこの手に取り戻す為にも、船長としての責務を全うすると自分に誓った以上、自分の体調管理も責任の一部だ。

悠季の頭の下へと腕を差し入れ、起こさないように抱きしめた。ああ、君の温もりと肌の匂いが僕を例えようもない安らぎに誘ってくれる。

「・・・ん、圭?・・・もう起きる時間?」

「いいえ、まだ朝までは時間がありますよ。もう少しお眠りなさい」

「・・・うん・・・」

 悠季は藍昌で過ごしたときのように、僕の胸に顔を押し付けほっと安心したようなため息をつくと、そのまままた眠りに戻っていった。
 

僕もこのかけがえのない夜に感謝して、わずかな間でも安らかな眠りを享受することにしよう。たとえ、明日にはつらい出来事が待っているとしても。

「・・・・・・」

 悠季が何事かを呟いた。

「・・・えっ?」

夢うつつの寝言・・・だったのだろうか?

僕が頭を上げて悠季の顔を覗き込むと、何事なかったように彼は眠っている。

 しかし、僕だけに聞こえたその言葉は、僕の涙腺を刺激し、ほろほろと熱く零れ落ちて枕へと吸い込まれていった。








――圭、愛しているよ――












 そう、聞こえた。